主人公の名前
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「なぁ海莉、なぁんでそんな離れて歩いてるんだ?」
「別に!気にしないで」
海莉は2人からそこそこな距離、およそ4、5メートル程離れて歩いていた。なぜそんな離れて歩く必要があるのか彼女の気持ちなど分かるわけもなく、怪訝な顔で2人は目を合わせ首を傾げる。物珍しそうに街並みを眺める海莉の隙をついたメローネは彼女の手と自身の手を絡め、そのまま勢い良く引っ張った。
「ちょ、ちょっと!?」
「デートといえば手を繋ぐ、基本だろう?」
「だからデートじゃあないって。買い物だよ買い物…」
「おい、転ぶぞお前ら」
子どもの引率をする先生か、それとも兄妹のお父さんかのように言うプロシュート。ぐいぐいと引っ張られているため顔は見えないが呆れているであろう彼の顔が眼に浮かぶ。
海莉は掴まれていた手を離すようにメローネに言うと、つまらなそうに口を尖らせて渋々とそれを離してくれた。すると彼女はまるでメローネから距離を取るようにプロシュートの後ろへ隠れる。明らかに自分が警戒されていると気づいたメローネだが、全く身に覚えが無いため理由が分からない。
「…お前ら何かあったのか?」
「俺が聞きたいくらいだよ」
「だってメローネ…何してくるか分からないから」
「………あ〜!もしかしてまだあの事気にしてるのか?」
その通りである。先日海莉はメローネになんとも言えない手つきでお腹、もとい子宮付近を触られた事を根に持っておりそこから彼をよく警戒するようになった。プロシュートに出かけるぞと声をかけられるまで2人はリビングで雑談をしていたではないかと思うかもしれないが、あれは一方的にメローネが話しかけていただけであって正直あのタイミングでプロシュートから出かける誘いがあって良かったと内心思っていたのだ。
先日の出来事をプロシュートに話せば、彼はあぁ…と悟った様に哀れみの様な目でメローネを見た。
「ふん、少し触っただけじゃあないか。軽いスキンシップだ、軽いな」
「私にとっては軽くないんだよ」
「何も身体を触られるのが初めてってわけでもないだろう?処女あるまいし…」
「…………!」
今のメローネの言葉で、ぴたりと彼女が止まった。そして海莉は反射的に止まってしまった自身に激しく後悔してしまう。ここで否定しないとマズイと頭をフル回転させて言葉を探すが見つからない。
「…え、もしかして君…処女なのか…?」
「ち、ちが…!」
「別に隠す必要はないぜ?あぁもし海莉さえ良ければ俺が卒業相手になっても…」
「な…!!??な、何言ってるの!?馬鹿じゃあないの、最低!!もうやだ、来ないで!!!」
行きましょうプロシュートさん!!と、彼の腕を引っ張り少しでも早くメローネから離れるため早歩きになる。なぜ自分がそこまで罵倒されねばならないのか理解に苦しむメローネを他所に、呆れて何も言えずただため息を吐くしかできなかったプロシュートは、とりあえずバーカとメローネに向けて口パクでそう言い放った。納得のいかないメローネは、子どもの様に拗ねて海莉たちが進む別の方向へと歩いていくのだった。
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「おい海莉、そろそろ機嫌直せ。せっかくお前に似合う服も、その仏頂面のせいで似合わなくなっちまう」
「…すみません」
プロシュートに連れてこられた店は、よくある洋服店。若い人に人気で、雑誌などでもよく掲載されているお店だった。そこに行き着くなりプロシュートは颯爽とレディースものを吟味し始め彼女に似合いそうな服を探していく。プロシュートは何着も手にとって、試着してこいと言われるがままに海莉は試着室に入り着替えてその姿を彼に見せれば、違う、または、まぁまぁだなと一方的に感想を述べ次々に色んな服を着替えさせられるという、最早ただの着せ替え人形の様だった。
「お前は何も悪くねぇ、キレる理由も分かる。が、あいつには何の悪意もなかったとだけ言っておく。メローネはそういう奴なんだよ」
「……それにしたってですよ」
「つーかよ、お前実際に〝そう〟なのか?」
「………、」
「沈黙は肯定と受け取るぞ」
「…男性とのお付き合いの経験はありますけど、いつもそこまでいかなくて…直ぐ終わってしまうんですよね…」
男性と付き合った経験は片手で余裕で数えられる程だが、残念ながらどの人もそこまで長続きはしなかった。連絡をお互いせずに自然消滅で終わったり、どちらとも好きではなくなってなんとなく別れたり、はっきりしない終わり方が多く長続きせずにいつも肉体関係にまではいかなかった。だから男性に対して免疫がないわけではないが、流石に身体を触られるのは抵抗がある。たとえ変態のイケメンでもだ。
あぁこんな事、メンバーの誰にも知られたくなかったというのに。メローネに対する怒りや、あの時きちんと上手く言葉を返せばと自分への後悔の気持ちが膨らむがもう遅い。
「ま、お前みたいな奴は初めてはちゃんと好きな奴とやるべきだな」
「…プロシュートさんは経験豊富そうですね。絶対モテるでしょうし」
「はっ…確かにその辺に関して困った事はねぇが…嬉しいとも思った事はねぇよ」
「え、」
「さっさと次着替えてこい!」
「はいっ!!」
次の服を渡されて試着室へと押し込まれた。経験豊富、モテる事に関して特に否定の言葉が無かったというのはつまりそういう事なんだろうが、嬉しいと思った事がない、その言葉だけが妙に引っかかった。モテる人でもそれはそれで辛いのだろうか、面倒くさいのだろうか、人に嫌われるより好かれた方がいいだろうに。なんてぼんやり考えながら袖に手を通す。
渡された衣服に着替えて、鏡で己の姿を確認するといつも選ぶ系統とは少し違っていて似合っているのか似合ってないのかよく分からない。もっと言うと自信がなかった。たが、早く出なければプロシュートを待たせてしまうので仕方なくゆっくりとカーテンを開けると、それに気づいた彼は早く開けろと言わんばかりに思いっきりカーテンを引っ張った。
「…ど、どうです、か?」
「…………」
「少し違いますかね、やっぱり」
「…いや、正直不思議でならねぇと思ってな。お前が男と付き合って長続きしねぇのは。よく見りゃいい女なのによ。大損だな」
「…え、っは!?」
「似合ってる」
流石俺、フンと笑って彼はまたスマートに会計へと進んでいった。彼からの驚きの言葉に海莉は思考が停止していて、おまけに胸の辺りがとても痛くて騒がしい。それはそうだろう、あのプロシュートにいい女と容姿を褒められたのだから。鏡など見ずとも嫌でも赤くなっているのが分かる。
会計を済ませたプロシュートは、未だに呆然と立ち尽くしている海莉が面白くてつい笑みが零れた。自分と彼女が接触した時に現れる海莉の一喜一憂が見ていて飽きない。だから構いたくなってしまう、こうして世話をやいてしまうのかもしない。
「あの、服…ありがとうございます。プロシュートさんにお世辞でも褒めてもらえて嬉しいです」
「馬鹿、世辞じゃあねぇよ。そんな面倒くせぇこと俺はしねぇ。こういう時は素直に喜んだ方が可愛げがあるぞ」
「……じゃあ、素直に受け取ります。ありがとうございます!!」
ニコッとはにかむような笑顔で笑う海莉に、とりあえず先程までのご機嫌ナナメをどうにか出来たなと安心し、彼女の頭をくしゃりと撫でる。プロシュートが買った服はそのまま着ててもいいとこ事で、タグだけ切ってもらってひとまず2人はこのお店を後にした。