主人公の名前
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「どうしたんですか!?その、頬の傷!」
「あー…ちょっと、女になぁ…」
暇つぶしにお菓子づくりでもしようとキッチンで材料などを漁っていると、何してんだと声をかけられ、振り向いたら顔に引っかかれたような傷をつくったホルマジオがそこに立っていた。彼は今女に、と答えたがつまり付き合ってる女性にそのような傷をつけられたのだろうか。何にせよ、労わりの言葉もうまくかけられず苦笑いをするしかなかった。
とりあえず手当だけでもと思い、傷に効くであろう塗り薬を患部に塗る。見ればみるほど痛々しい。一体どんな話になって、こんな事になったのか聞いてみたいのが正直なところだ。
「あの…その、女性はまだたくさんいますし…ホルマジオさん素敵ですから、またいい人に出会えますよ!」
「いいって、変に励まさなくても。けどまぁ…ありがとな」
海莉の頭を無造作に撫でるホルマジオの顔はとてもギャングには見えないくらいの、屈託のない笑み。なんでそんな人がギャングなんだろうなんて疑問はもちろん本人に投げかける事は出来ないけれど。
塗り薬の蓋を閉めて箱に戻すと、なぁとホルマジオが彼女に声をかけた。
「悪ぃけど、その女に会ってくれねぇか?」
「…え!?いや、ちょっとそれは…!?」
「お前からも一言あいつに言ってほしいんだよ、もう少し優しくしろってな」
「私みたいなのが会うと返って状況が悪化するんじゃ…」
抵抗する海莉の手を引っ張り、大丈夫だからと何の根拠もなさそうな言葉を口にするホルマジオ。この手の話には絶対に首を突っ込みたくないし、関わったら自分が大変な事になるのは日本で学んでいる。だからと言って、ここイタリアもそうなのかは分からないが結局男女のいざこざなんてものはどの国でも共通なんだと、少なくとも彼女はそう思っていた。
海莉の抵抗の声は彼の耳に悲しくも届かず、気づけば外に連れてこられている。もうどうにでもなれと、心が折れた彼女の事なんてお構いも無しにホルマジオはどんどんと進んでいくその足を止める事は無かった。大人しく彼について行くと、アジトから少しだけ離れた路地裏。こんな人気のいない場所にホルマジオの恋人がいるとは考えられないが。
「あの…ホルマジオさん、いったい…」
どこへ?と言葉を口にしようとしたら、ホルマジオはここだぜと言って海莉の方を振り向き、その場所へと指を指す。それを辿った先にいたのは。
「ニャー」
「……………ねこ、」
「メスのな!」
所々の隙間から頭をのぞかせ、こちらを様子を伺う子、毛づくろいをする子、たくさんのネコ達がそこにいたのだ。海莉は何だそういうことか、と安堵のため息を吐く。メスのネコ、言葉は違えど意味は同じ。ホルマジオは女の子のネコに顔を引っ掻かれたわけだ。
「わりぃわりぃ!驚いたかぁ?」
「そりゃあ驚きましたよ、色んな意味で!!心配して損しました」
「んなむくれるなって!」
そう言ってまた海莉の頭を撫でる彼は、まるで子どもをあやすかのよう。たがよくよく考えてみれば、引っ掻かれた傷をみれば人ではなく動物だと簡単に判断出来たとも思えるが、とにかく男女のいざこざに巻き込まれなくて良かったと思っておこう。
ホルマジオ曰く、ネコは好きだがなぜか向こうからはあまり好かれないらしくこうやって逃げられたり引っかかれたりする事が多々あるそうだ。ネコが好きなのに、好かれないとはちょっと悲しい話ではある。
「何でなんだろうなぁ…ったくよぉ」
「私ネコはあまり詳しくないのでそういうのは分かりませんが…」
海莉はネコ達に向かって腕を広げ。おいでーと声をかける。なかなか警戒を解かないネコ達ではあったが一匹のネコがゆっくりゆっくり近寄ってくる。海莉は動かずその子が寄ってくるのを待つと、彼女の身に寄り添いちょこんと座った。その姿がなんとも可愛く、背中を撫でてあげると小さくにゃあと鳴いた。
「…ふふ、可愛い」
「羨ましい限りだぜ」
海莉は完全に警戒を解いてくれたネコの体を抱っこし、ホルマジオへと向きを変えた、
「抱っこしてみます?」
「……俺には分かるぜ。コイツ絶対、俺を引っかくつもりだな」
「そんな事ないよねぇ〜?」
海莉は暫くネコの肉球やら、もふもふを堪能した後、ゆっくりと地面への下ろしてあげた。彼女に懐いたのは気まぐれだったのか、そのネコは特に未練もなく仲間の方へと帰っていく。正直な話、どちらかというと海莉はネコより犬派であった。日本の実家で飼っていたし、その飼い主に忠実なところとかやはり可愛げがあって好きなのだが、ネコはどうしても気まぐれでよく分からない。だがそんなところが好きでたまらないのがネコ派の意見なのかもしれないが。
「因みにあの家…アジトって動物とか飼えたりできます?」
「できねぇ事はねぇけど…アイツらがオーケーを出すとは思えねぇなぁ」
「あはは…そうですか」
「飼いてぇのか?」
「…と、思ったんですけど。よくよく考えると今の私は動物のお世話よりみなさんのお世話を優先しなくちゃいけないので」
「ほぉー、言うようになったなおめぇ」
意地悪そうに笑って、彼女の頭を小突くホルマジオに、つられて海莉も子どものように笑った。何となくだがホルマジオと話していると、兄と話しているような気がしてならなかった。実際海莉には兄という人はおらず、弟が1人。自分が姉という立場しか分からなかったのだが、きっと兄がいたらこんな感じなのかもしれないなんて、そう感じた。
それから海莉とホルマジオはネコ達と別れて、アジトへと戻ろうとしたのだが折角なので食材を少し買い足すために最寄りのスーパーへと足を運んだ。冷蔵庫と財布の中を思い出しながら必要な物をカゴに入れていく。
「とりあえずこんなもんで大丈夫かな…」
「買い忘れがありゃ、また来ればいいだろ?そん時は付き合ってやるよ」
もちろん仕事が重ならなけりゃあな。そう言って彼はカゴを片手に会計へと進んでいく。彼女も置いてかれないよう彼の後を追いレジへと並んだ。順番が来たので財布を取り出すと、店員である中年のおばさんが彼らに声をかけた。
「あら、仲が良い兄妹ねぇ。んー、でも恋人かしら?」
その何気ない言葉にホルマジオはふと少し考えた。そういえば俺らと海莉の関係とは一体何なんだろうと。俺たちはギャングで、こいつはその家政婦。俺は、仕事は違えど仲間と思っていたがギャングではないし、何より仲間といってしまうとこいつも同じギャングという一括りになってしまう。何となく、何となくホルマジオはそうはしたくなかった。たが仲間と思いたいのも嘘ではない。言葉に詰まらせている彼をフォローするかのように海莉は笑って答えた。兄ではないですけど、兄みたいな存在です、と。
「そうなの!ごめんなさいね、勘違いしたわ」
「いいえ、気にしないでください!」
気の良いおばさんは、再び世間話を続け海莉はそれを相槌をうち話を聞いていた。会見を済ませて今度こそ本当にアジトへと帰ろうとスーパーを出ると、海莉。とホルマジオに呼び止められた。
「あー…さっきのよぉ」
「あ、兄みたいな人ってやつですか?気を悪くしてしまったのなら謝ります…」
でも嘘ではなかった、本当にそう思ったんだと彼女の口から出たのは驚いた。と同時に嬉しく思う自分もいたのだ。そう、彼女に思われるのも悪くはないと。
「おめぇ、こんなんでいいのかよ。兄貴が」
「えぇ!?良いに決まってるじゃあないですか!!じゃなかったら兄だなんて最初から言いませんよ」
ギャングの兄貴でいいのかという意味で聞いたのだが、それは無意味な質問だったんだろう。海莉はきっとそんな事最初から考えてはいないのだから。
「なら!!俺を兄貴と慕うなら、その話し方も呼び方もなしな!!」
「………いいんですか?」
「つうかもともと痒かったからよぉ、それ」
「そっか……分かった。ホルマジオ」
なんならペッシくんみたいにホルマジオ兄貴って呼んであげようかと言ってきた。じゃあお兄ちゃんって呼んでもいいぜと冗談で返すと海莉は可愛く顔をつくりお兄ちゃん、と言ってきた。自分で冗談で言った事に多少の恥ずかしさを覚えたホルマジオは、また彼女の頭を軽く小突いた。