ー新伝ー伝説を継ぐもの

ー空き地ー

悠(?)「はぁ……はぁ……」

千夜「なんだ、もう息上がってんじゃねぇか」

悠(?)「くっ……」

潰れた右手を庇いつつ、ユウはサイドステップで正面から迫る千夜から右へと避けた。

千夜「逃げんなッ!」

怒声ととも千夜は足を振る。守っている右手ではなく左の手首をかすり皮膚がミヂリッと音を立てて剥がれる。血の雫を撒き散らし顔を歪めながら黒き死神の射程内から距離を開けた。

悠(?)「うぐっぅ」

ユウの顔からは当初あった余裕は消え去り激痛から汗があふれ出る。死神は言い放った。

千夜「なんて面してる。喧嘩で相手の弱点を攻めるのは常識だろ。」

ユウは上着を脱いで地面に置いて踏みつけた。袖の部分を左手で掴んで引きちぎった。シルク仕立てブランド物の背広はただの布切れと化して、それを両手に巻き付ける。

悠(?)「ぐっ……」

裂けて二つに分かれかける手のひらを力いっぱいに布で圧迫しボタボタと紅の液体が地面に水たまりを作る。

千夜「……」

悠(?)「来いよ!!」

千夜「来いじゃねぇだろ……。ひとを待たせといてよぁま、これで少しは形になるか……。」

千夜はククッと低く笑って、間合いを詰めて又飛び上がった。

悠(?)「っ……?!」

超至近距離高速ソバットが来ると両腕で顔をガードしようとしたが、千夜は斜め下へと落ちた。ユウの足を踏み潰した。
ガチュリっと豪快な音がして革靴の一部が破裂したように穴が空いてそこから覗く足の甲は肌色ではなくどす黒い赤。

千夜「怒ったか?」

悠(?)「う、うおおぉぉぉぉ!!」

咆哮をあげて力任せに拳を振り回す。もはや、パンチとはいえない代物は千夜を捉えるのは水の中の魚を素手で捕まえる様な行動だった。
かすりもせず、一切の攻撃は虚しく空を切る。
ワン、ツー、スリーと続けるコンビネーションも疲労と足の故障からだんだん単調になった。
そうなると動きが完全に読まれついには、大振りの左ストレートブローに合わせて千夜は肘をぶつけた。

バチリっと左拳が粉砕する。

千夜「はっ、もう拳じゃねぇな」

カウンター効果で肉体以外にも心に深い揺るぎが来てユウは身をたじろかせた。そのウィークポイント(弱点)を死神は見逃しはしない。
半円月に足をまわし、自身の頭部と足先が一直に重なった瞬間真下におろした。
踵が進行先にある邪魔な物を打ち砕き地面に突き刺さる。

悠(?)「っ~~~~!!?」

膝を砕かれ悲鳴とも雄たけびともとれる声を吐きだした。右手は半裂け、左は手首が骨折、右足は粉砕骨折し、左足は膝が折れた。
もはや、生まれたての小鹿のようにガクガクと足が揺れて自分を支え切れていない。殺すも生かすも千夜しだいだった。視線だけは一切そらさない物のユウに残された行動はもう何もなかった。

千夜は壊し終わった部位を一か所一か所確認して首を振る。

千夜「さて……これで武器はすべて無くなったな。」

黒い死神は自分の上着を拾いあげる。

悠(?)「な……なにっして……」

千夜「俺はもう帰るが……続ける続けないはお前の自由だ。勝手に後ろから襲いかかるのも良い。負けたと思うならほっとくもよし。決めるのはお前だ。それと、お前が名乗ってる男に十分の一も近づけてない。類似品にもなれない三流品以下だ。」

千夜はふり返らずに歩いていく、ユウは震えていた。立つのが精いっぱいの自身に。与えられた完全なる敗北に。叫ぶこともできない自身の弱さに。

悠(?)「ぐっ……うっぅぅ……」

目からこぼれる液体は痛みから来るものではなかった。悔しさから止めることも出来ずあふれでる涙は枯れることは無かった。







千夜「……」

禅「……」

千夜「救急車呼んでやれ。自力じゃ動けなくなってる」

禅「は……い。あり……がとう……ござ……います」

千夜「礼を言われる筋合いは無い。俺はただ前のケジメを付けただけだ。それより……なんで此処にいる」

禅「秘密……です」

千夜「ふん、そうかよ」
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