ー新伝ー伝説を継ぐもの
ー池袋西口路地ー
ガゴッ!!ドガッ!!
左、右とコンビネーションフックに巨人のデカイ顔と太い首が左右に振るった。路地裏に響く音が打撃の威力を物語る。ほぼ胴体を覆いかけた腕が寸前の所で止まった……っと、思った刹那、金剛は右足の爪先をシュギャッと地面をこすりつけ、打撃の雨を突破した。
背中から尋常ではない圧迫感に苛まれた。大蛇にでも締め付けられたのかとイメージ錯覚してしまう程の圧力。自分を抱き潰す勢いの巨神は所々赤く染まった歯をむき出しにして笑った。その顔にも恐怖を感じたが、すぐに別の恐怖がやってきた。自身の視界が上がる、子どもの頃よくされた高い高い。自らの身体が持ち上げられたのはいつ以来だろうか、脳が現実逃避をする走馬灯を見せる。
それもつかの間だった、凄い早さで景色が移動して地面にぶつかった。暗転から目のまえでちかちかと火花が散ったような状態になる。
ズシャリ……背後で大きな物体が近づいてくる音に、自分が掴みあげられて叩きつけられたのだと理解(わかっ)た。
言うことを聞かぬ手足、身体を無理矢理捻って芋虫のようにふり返った先には、巨人が見えた。その数は五人、いや、六人……脳が揺れて視覚が定まらない。近づいてる、一歩一歩確かに地面を踏みしめて近づいてくる。さんざん殴り、打ちのめしたダメージを毛先も見せず、確実に反撃に出る。
「(……この男は……それほどの潜在能力(ポテンシャル)を持ちながら……)」
「ふんっ!!」
避けようと首を振ろうとしたが思うように動くはずもなく横に向くのが精いっぱいだった。ガゴッ!!そこに石の固まりが落ちて来た。頭を地面に残して身体が跳ねあがる。その一発で意識はほぼ飛んだ。潰れた頬の肉が戻らないほどめり込み、口内に溜まった血が勝手に口からこぼれる。
「(て……っ底的で……)」
「ふんっ!!」
振りあげた腕の先、拳骨を固めハンマーの要領で頭部を打った。痛みなのか衝撃なのか表現できない痛みと骨の軋む音に、頭を割られると防衛反応からか起き上ろうとした、目に靴の底が映り顔を踏み潰された。
ビグンッと痙攣にも似たアクションを起こし動かなくなった男から金剛は足をどけて、顔を覗きこむ。目は虚空を見て口は半開き……。
「(そして……完全主義し……)」
かすかに動いた唇に反応して更に二度、三度、四度と顔を踏みつけた。あたりを汚す血飛沫、ひび割れへ込む地面。おおよそ意識も飛びきった男の顔を今一度覗きこむこと数秒。
動かない事に納得し金剛は捨てたタンクトップを拾いあげて行こうとしたが、金髪ロン毛の男が苦笑いした。ふり返るとユウは汗だく血まみれの顔で、震えながらも壁を背にして立ち上がっていた。
肩で息をしていった。
「ダメージを受けると……立ちあがっちまうんだよっ」
金剛は何もいわない。タンクトップを投げ捨て、ユウへと前進する。拳を握り己が間合いに入るも、先に攻めたのはチャレンジャーだ。
上半身を振って壁を蹴り飛ばし、反動を利用した今まで以上にキレとスピードと威力のあるストレートが巨人の顎を狩った。拳の先からつま先にビリビリとした痺れが自分に戻ってくる程の威力。
巨神はガクガクと揺れ頭から崩れていき、ユウの視界から消えた。
次の瞬間自分の右足が意思を無視して後ろに進んだ。何の不思議もない。視界から消えた巨神に膝を殴られたのだった。
支えを失い自由落下していく身体が宙に浮いた。超下段から発射された石の拳が顎を突き上げた。
空中コンボなんてゲームの中の代物と思っていたが、冗談じゃない。地面に足がつく間もなくボディブローが突き立った。ガードも受け身も出来る訳が無く、ただ前から襲った衝撃と推進力で壁まで飛ばされた。ズズッと背中の皮膚をこすりつけながら着地する。巨人がこっちを見ていた。
ユウは誰にでも解るほど震えつつ、両腕を伸ばし、両手の指を内側へと何度か倒す。
汗と涙と涎と鼻血まみれの顔で笑顔をつくり舌を出して挑発する。
「こっ……」
何かを言おうとしたらしい。しかし、無情にも最後の言葉を言い終わる前に巨大(おお)きくて堅牢(かた)い拳骨が顔の潰した。
めり込んだ拳が引き抜かれるとユウの顔と金剛の拳に赤く粘ついた糸が引く。ちょうど目の下から下顎にかけて陥没し無残な顔ができあがっていた。半開きになった口から出ている舌は半分切れていて喋ることはできないだろう。
糸の切れた人形のように崩れ落ちるのを見届けて、今度こそ本当にタンクトップを着直した。
「っぁ(こ)……ぅっ(い)……ぃっ(よ)……」
「!!」
声にならない声を出して片手でまだ来いっと動いている。
「っぅ……(チャ)……ァぁ(ンス)……ん(だ)……ぇっ(ぜっ)」
巨人はしばし見つめるも、踵を返しもうふり返る事は無い。
「(クソッ…逃げられちゃ……しょうがねぇな……)」
ユウの意識は完全にブラックアウトした。
ガゴッ!!ドガッ!!
左、右とコンビネーションフックに巨人のデカイ顔と太い首が左右に振るった。路地裏に響く音が打撃の威力を物語る。ほぼ胴体を覆いかけた腕が寸前の所で止まった……っと、思った刹那、金剛は右足の爪先をシュギャッと地面をこすりつけ、打撃の雨を突破した。
背中から尋常ではない圧迫感に苛まれた。大蛇にでも締め付けられたのかとイメージ錯覚してしまう程の圧力。自分を抱き潰す勢いの巨神は所々赤く染まった歯をむき出しにして笑った。その顔にも恐怖を感じたが、すぐに別の恐怖がやってきた。自身の視界が上がる、子どもの頃よくされた高い高い。自らの身体が持ち上げられたのはいつ以来だろうか、脳が現実逃避をする走馬灯を見せる。
それもつかの間だった、凄い早さで景色が移動して地面にぶつかった。暗転から目のまえでちかちかと火花が散ったような状態になる。
ズシャリ……背後で大きな物体が近づいてくる音に、自分が掴みあげられて叩きつけられたのだと理解(わかっ)た。
言うことを聞かぬ手足、身体を無理矢理捻って芋虫のようにふり返った先には、巨人が見えた。その数は五人、いや、六人……脳が揺れて視覚が定まらない。近づいてる、一歩一歩確かに地面を踏みしめて近づいてくる。さんざん殴り、打ちのめしたダメージを毛先も見せず、確実に反撃に出る。
「(……この男は……それほどの潜在能力(ポテンシャル)を持ちながら……)」
「ふんっ!!」
避けようと首を振ろうとしたが思うように動くはずもなく横に向くのが精いっぱいだった。ガゴッ!!そこに石の固まりが落ちて来た。頭を地面に残して身体が跳ねあがる。その一発で意識はほぼ飛んだ。潰れた頬の肉が戻らないほどめり込み、口内に溜まった血が勝手に口からこぼれる。
「(て……っ底的で……)」
「ふんっ!!」
振りあげた腕の先、拳骨を固めハンマーの要領で頭部を打った。痛みなのか衝撃なのか表現できない痛みと骨の軋む音に、頭を割られると防衛反応からか起き上ろうとした、目に靴の底が映り顔を踏み潰された。
ビグンッと痙攣にも似たアクションを起こし動かなくなった男から金剛は足をどけて、顔を覗きこむ。目は虚空を見て口は半開き……。
「(そして……完全主義し……)」
かすかに動いた唇に反応して更に二度、三度、四度と顔を踏みつけた。あたりを汚す血飛沫、ひび割れへ込む地面。おおよそ意識も飛びきった男の顔を今一度覗きこむこと数秒。
動かない事に納得し金剛は捨てたタンクトップを拾いあげて行こうとしたが、金髪ロン毛の男が苦笑いした。ふり返るとユウは汗だく血まみれの顔で、震えながらも壁を背にして立ち上がっていた。
肩で息をしていった。
「ダメージを受けると……立ちあがっちまうんだよっ」
金剛は何もいわない。タンクトップを投げ捨て、ユウへと前進する。拳を握り己が間合いに入るも、先に攻めたのはチャレンジャーだ。
上半身を振って壁を蹴り飛ばし、反動を利用した今まで以上にキレとスピードと威力のあるストレートが巨人の顎を狩った。拳の先からつま先にビリビリとした痺れが自分に戻ってくる程の威力。
巨神はガクガクと揺れ頭から崩れていき、ユウの視界から消えた。
次の瞬間自分の右足が意思を無視して後ろに進んだ。何の不思議もない。視界から消えた巨神に膝を殴られたのだった。
支えを失い自由落下していく身体が宙に浮いた。超下段から発射された石の拳が顎を突き上げた。
空中コンボなんてゲームの中の代物と思っていたが、冗談じゃない。地面に足がつく間もなくボディブローが突き立った。ガードも受け身も出来る訳が無く、ただ前から襲った衝撃と推進力で壁まで飛ばされた。ズズッと背中の皮膚をこすりつけながら着地する。巨人がこっちを見ていた。
ユウは誰にでも解るほど震えつつ、両腕を伸ばし、両手の指を内側へと何度か倒す。
汗と涙と涎と鼻血まみれの顔で笑顔をつくり舌を出して挑発する。
「こっ……」
何かを言おうとしたらしい。しかし、無情にも最後の言葉を言い終わる前に巨大(おお)きくて堅牢(かた)い拳骨が顔の潰した。
めり込んだ拳が引き抜かれるとユウの顔と金剛の拳に赤く粘ついた糸が引く。ちょうど目の下から下顎にかけて陥没し無残な顔ができあがっていた。半開きになった口から出ている舌は半分切れていて喋ることはできないだろう。
糸の切れた人形のように崩れ落ちるのを見届けて、今度こそ本当にタンクトップを着直した。
「っぁ(こ)……ぅっ(い)……ぃっ(よ)……」
「!!」
声にならない声を出して片手でまだ来いっと動いている。
「っぅ……(チャ)……ァぁ(ンス)……ん(だ)……ぇっ(ぜっ)」
巨人はしばし見つめるも、踵を返しもうふり返る事は無い。
「(クソッ…逃げられちゃ……しょうがねぇな……)」
ユウの意識は完全にブラックアウトした。