ー新伝ー伝説を継ぐもの

ー池袋西口路地ー

ユウは改めて目のまえに立つ巨人を見上げた。デカイ。でたらめに強大な男。誰かに見降ろされるという経験は決して多くはない自分の身長を軽々と凌駕する巨体の持ち主はいった。

「もう一回聴く。本当にタカナシユウなんだな?」

ためらわず淀みなく答えた。

「俺がタカナシユウだ。」

巨人は歯をむき出して笑う。それだけでとんでもない大迫力だ。

「なるほど。オカルトは興味ないし信じるつもりもないけど、占いってのはあり得るのかもしれないな」

「何の話だ?」

「こっちの事さ」

睨みあう二人の後ろで摩耶がいった。

「そういえば夢ちゃんは?」

「五月蠅いから帰らせた。お前らももう帰っていいぞ」

バットを背中に収めつつ紅は独と京に声をかけたが、独ひとりの力では荷物と京を運べるほど体力は無かったのだった。

ユウは巨人に聞き返す。

「そっちは何者なんだ。俺の事を知ってるみたいだし、その身体つきレスラーか?」

「レスラーじゃ無く、ランカーだ。秋葉の闘路ランカー金剛だ。」

ユウの顔がわずかに険しくなった。眉間にしわが刻まれる。

「秋葉のランカー……金剛」

小鳥遊悠は秋葉原闘路のランキング一位。名を語るなら知らぬ道理が無く、当然同じ所属の上位ランカー者の金剛を知らぬ訳が無い。
この時点で互いがどういう立場で話しているか、何聞きだそうとしているかを理解した。
ユウは上着を脱ぎ捨てていった。

「どうやら、今日は素晴らしい日になるようだ。ついに近づいた訳だ。」

金剛もタンクトップを脱いだ。生身の肉体というにはかけ離れ過ぎている筋肉の固まりがあらわになる。

「本物……にか?」

「何の本物かな……。」

「ま、いいけどな……。小鳥遊悠を語るって意味を解らせてやるよ。」

巨大な塊が飛んで来た。そういう風にしか例えが出なかった。迫りくる巨拳はユウの肩を抜ける。回避と同時に左腕を横ぶりにした硬そうな顔にフックが突き当り、一瞬大きく目を見開いた金剛は足を挫き膝をつく。

「なるほど……いい感じだ。」

「ほら、どうした立てよ。」

まだ、膝を着いたままの男の顔にストレートが入る。良い手応えはあった。金剛は殴られながら腕を突き上げた。上半身をスウェイさせて顎先スレスレを抜けていく剛腕を避けて、アッパーを打ち返す。ガグンッと巨人の首が振るった。さらにもう一撃ダメ押しで横面にフックをお見舞いする。ベチンっと頬肉を潰したが、奴は倒れ無い。
顔面、顎、横頬、おおよそ人体の中で弱点とされる部位への連続攻撃が直撃したにも関わらず金剛は身体が半周するほど強撃なパンチを振るった。

これもやはり顔面狙い。地面を爪先で蹴って当然紙一重でそれを避ける。着地と同時に今度は踵で地面を踏みしめて前に踏み込む。四度目のストレートを打ちこみ、鼻を潰したのかブチュりっと生ぬるい感触が拳に触れる。だが、その瞬間腹部にとてつもない衝撃が走った。まんまえからのストレートナックルを受けてなお、巨人はカウンターに蹴り飛ばしたのだ。
今までのダメージを帳消しにするかの威力の蹴りを受けて壁に追いやられた。

「がはっ……っ……は、はは……いったい……どういう男なんだよ……こんな……こんな怪物より強いのか小鳥遊悠は……っ。」

一発のダメージが消えないまま立ち上がったが奴は余裕で向かってくる。
何て巨大(おお)きく、なんて重く、なんて強靭(タフ)、なんて粘り強く、なんて力強いんだ……。

「ぺっ……」

金剛は口から何かを吐きだした。血だけでなく、カラカラと歯が地面に落ちる。
ダメージが無い訳では無いっ。十分まだ間合いはある。射程距離に入ったらもう一度顎を穿つ。絶対な自身のパーソナル空間を見定めたが、それは簡単に突破された。
巨体にあるまじき俊敏(はや)さと柔軟(やわらか)さで波打つように距離を詰めて掴みかかってきた。背は壁、これ以上は下がれない。

「やろっ!?」

二本の巨手に触れられる寸前に左のショートアッパーを打つ。ゴッ!!直撃した。手応えは決して浅くない。だが、巨人は粘り強い。ほんの一瞬は停止したものの勢いは緩まることをしらず前進してきた。止まらない。止めるしかない。左手を引いて腰を切り、がむしゃらなフックを右面に叩き込んだ。
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