ー新伝ー伝説を継ぐもの

ー池袋西口路地ー

訳のわからない状況に出くわしたと思った。

「……」

色々と訳の分からない状況は経験してきたが、今回ばかりは本当に訳がわからないと、紅は苦笑いで首をかしげていた。

先に分かれた金剛と摩耶は呆れ顔、半裸状態で真っ赤になってるがりゅーは放心状態。そのがりゅーに跪いてる黒髪ロングの知らない奴と、もうひとり知らない顔の金髪……。
あまりに状況が意味不明すぎて逆に冷静になった紅は座り込んでいた独の襟首を掴んで立ち上がらせた。

「うわっ?!」

「よう、久しぶりだな。悪いんだけどひとつだけ教えてくれ。どいつが敵だ?黒ロン毛か?金髪ロン毛か?」

「あ、えと……あの……黒いロン毛?」

「わかった。じゃあ、キャッチする準備だけしといてくれ。」

「は?」

紅は背中から紅いバットを抜いてズカズカと異色の空間の二人に近づいた。赤面硬直中のがりゅーの腕を掴んで真後ろに投げ、紅いバットを黒髪ロン毛目掛け振り下ろした。奴は地面を蹴り飛ばし蚤が跳ねる強襲を避ける。

「え、ちょっ、キャッチってそういう?!」

後ろではしっかりと受け止めきれなかった独ががりゅーの下敷きになっていた。

ぎゃりりっとバットの先で地面をひっ掻いて紅はいった。

「避けるねぇ」

「てめっ……いきなり何しやがるコラ。」

「んー……なんかアンタが敵っぽいから殴っておこうと思っただけだ。人のツレの嫁さんに手出してるし。」

「嫁?」

紅は顎をしゃくって、まだ放心状態のがりゅーをさしていった。

「あの子だよ。純情無垢で一途な子なんでな。変なことするんじゃねーよ。」

「変なことじゃないごくごく普通の挨拶さ。それに……悪いのはあんな素敵なレディから目を離してる野郎が悪いのさ」

「あのこの旦那は極度のニブニブフラグブレイカ―だからな。その辺は大目に見てやれ。」

「なら、横取りもオーケーって事だよな」

「良く喋る口だな……っていうか、アンタら誰だ?ここはSウルフの縄張りだぞ騒ぎ起こしていいと思ってるのか。」

金髪ロン毛は自分は関係ないですよと両手で×を作って首を振ってアピールしたが、黒髪ロン毛の方はネクタイを解きながらいった。

「俺の事を知らないなんてな……。」

「だから、だれだっーの!」

「やれやれ、俺の名前はタカナシユウだ。」

「「「たかなし……ゆう?」」」

紅だけでなく、黙って事のなりゆきを傍観していた金剛と摩耶も目を点にして声を揃えた。
そして、全員がある答えにたどり着き大中小で顔を見合わせる。

ユウはいった。

「その様子だと知ってるみたいだな。」

三人は足元から頭の先へと視線を上げ下げして偽物の姿を吟味する。靴はバスケットシューズ靴下も黒、ズボンはジーパンで、シャツは破れてほぼ原形を留めていないが今はやりのスクール風のシャツにダークブラウンのしゃれた細いネクタイ。髪は黒で長く二つ編み。総合得点は……30点。似ているのは体型くらいではないだろうか。なんだったら、後ろでまだ尻もちついたままの独の方が似ているかもしれない。
自信満々に腕を組んでいるユウに摩耶がいった。

「タカナシユウなんだ……。それでぶっ飛ばしていいの?」

ユウは急に声色を変えていった。

「ダメだよ。キミみたいな可愛い子に手をあげるなんてできないさ。」

どうやら偽物のうえ、目も節穴らしい。後ろに居る金髪ロン毛がいった。

「たぶん、その子は男の子だぞ。」

「あんな可愛い子が男の子の訳が無い。」

自信でまんまんで言いきったが摩耶は男の子である。そして、どうやら、摩耶は軽くでは無く本気でキレているようだった。いつもの笑顔なのに放ったひと言に真っ黒いものが撮り憑いている。

「殺したい……なぁ。」

思わず距離をとる紅。前に出ようとする摩耶の前に巨大な手が伸びて制止させる。

「まぁ、待て。ああいう手合いは俺がやる。摩耶は悠のことになると少しカッとなり過ぎるだろ。」

「……わかったいいよ。」

少し考えて不服そうに頬を膨らませて、金剛の手を叩いた。任せるよという挨拶なのだろう。
87/100ページ
スキ