ー新伝ー伝説を継ぐもの

ー池袋西口路地ー

青空色の髪サラサラと揺れ、とても大の男を吹き飛ばしたとは思えない女性らしい肢体。引き締まった小ぶりな尻と、さらしに隠されてた軟らかな双丘。路地裏に立つにはあられもない姿だが、逆にそれがとても煽情的だった。
そして、その彼女は不意に拳を握り高らかに腕をあげていった。

「おー、勝ったぞ!」

今までの空気を一気に覆して元気よく叫ぶがりゅーちゃんだった。
その勝利の叫びに独はハッと我に返り、上着を脱いで彼女に近づこうとした……が、視線がぶつかる。まだ壁でうなだれている男のツレの男が同じように上着を脱いで渡す準備をしている。ここで、男の本能が叫んだ。

「「(俺が渡す!!)」」

今ここに、さっきとは違う闘いが勃発した。
迅速に行動へでた二人、先に声をかけたのは……

「あれれ、がりゅーちゃんじゃない」

「おっ、摩耶……さん。」

下心丸出しの男二匹がど派手にずっこけたのをガン無視して、いつのまにか現れた摩耶は笑った。

「あはは、いいよ。呼び捨てで~。それより、随分と前衛的な格好だけど何してるの?」

「色々あったんだ。摩耶は何してる?」

「そうなんだ。なんか、大きな音がしたから来て見たんだけど……」

摩耶は見まわした。裏路地で臥劉の殴られた跡と対角線上の壁にうなだれてる男。あたりの状況を踏まえていった。

「色々あったみたいだね。」

「ああ、色々あったんだ。」

ぽやぽやとのんきな会話をする二人を影が覆った。ひときわ大きな男が現れて見下ろしながらいった。

「なんだ、がりゅーと……そこに居るのは天涯とかいう奴じゃないか何してる。」

摩耶とがりゅーは声を揃えて色々あったといった。金剛はそうかといって自分の上着を京の肩にそっとかける。特大のジャンパーは子供三人が容易に入りそうなくらいの大きさだ。
金剛も摩耶と同じように辺りを見回して、うなだれている男では無く、金髪の男に眼光を向けた。

それに気づいたのか凍夜は手に持った上着を肩にかけていった。

「なにか?」

「何かか……そうだな。なにから聞くかな、いや、単刀直入にそこのガキと女に何かしたのか?」

喋ると首の筋が張って女のウエスト程も有りそうな二の腕が連動して盛りあがる。人体の不思議というか規格外の筋肉量。下半身から上半身へとじっくり観察してから顔を見て凍夜は言った。

「俺ではないけど、ひと悶着はあったよ。」

顎をしゃくって壁際を指す。すると、糸の切れた人形みたいに倒れていたユウがズルリと動いた。両手をついて立ち上がる。真っ白なカッターシャツは腹部が渦を巻いたように引きちぎれ喰らった打撃の威力を物語っていた。

「うっ……はぁ……あー、回復した。」

誰がどう見ても瀕死状態にしか見えないが回復したと言いきって臥劉を見た。そして、ゾンビのようにノロノロと近づいてくる。彼女を挟む金剛と摩耶は高低差のあるアイコンタクトを交わした。妙な動きをしたら仕掛けると……。
ただ近づくだけには十分過ぎるほど時間をかけ、目のまえにたどり着くと奴は突然京の手を取って跪いた。

「すまなかった。キミが美しい女性だなんて……俺はなんという過ちを犯してしまった事か……謝っても許されないかもしれないが……どうか、この愚かな俺を許して欲しい。」

チュッとリップ音を鳴らして手の甲に口づけをする。あまりに予想外の行動にデコボココンビは彼女に視線を移す。された本人も想定の範囲外だったのか、もともとそういうことに耐性が無かったのか頭の先から恐らくつま先まで真っ赤になっていた。金魚のように口をパクパクさせている。

「ぁ……ぃや……うぅっ///」

跪いた男はお構いなしに続ける。

「あぁ、なんて美しい手なんだ。軟らかく暖かくきめ細かく白い肌……なのに、あんな鋭い一撃を繰り出せるなんて、キミはヴァルキュリアの生まれ変わりなのだろうか。」

いったい何を言ってるんだこのアホはとその場に居た男性陣は心を一つにしていた。しかも跪いてるやつはがりゅー以外の存在を完全に無視して自身のパーソナルスペースをつくってチュ、チュ、チュ……っと、指の一本一本にキスをしていて、そのたびにボフッボフッとがりゅーの頭から水蒸気が上がっていた。

「はぁ……キミに触れているだけで俺はどんどん癒されていく、胸が焦がれていくよ。」

心なしか奴の肌はツヤツヤになっている。まさか本当に回復しているというのだろうか……。
86/100ページ
スキ