ー新伝ー伝説を継ぐもの

ー池袋西口路地ー

止めるべきだったのかも知れない……。
その言葉が脳裏をよぎったのは第一激突が済んだ後だった……。天涯独は内心、すぐに片が着くと思っていた。もし、強さというモノにランキングをつけるとしたら九頭竜神姫、臥劉京は間違いなく一位、二位の存在だったからだ。

「ぐっ……!」

「……」

だが、目のまえの光景は得意の螺掌が届かず、京の右頬に拳が突き立っている絵だった。
大の男に同学年の女の子が殴られる……黙って見過ごせる訳が無いはずなのに、身体が鉛のように重く動けない。独が固まって動けずにいるとユウが一歩、二歩と後ろに後ずさりながらいった。自分の胸を押えている。

「馬鹿な……当たってない……ぞっ。」

「あたったよ……。」

誰にも聞こえないようにそう呟いたのは腕を組んでなりゆきを見ていた凍夜だ。一見するとユウのパンチが京の頬を打ち、掌打は当たらずに終わった。……ように見えただけで、京の掌打はしっかりと当たっていたのだ。これは空手のstyleを物にする凍夜ゆえに「わかった」のかもしれない。

京は唇の端から垂れる血を指先でピッと払っていった。

「お前のパンチなんか全然いたくないっ!!こいっ!」

こいっ!といっておいて、京は自ら前に進みだした。正体不明の攻撃にうろたえるユウ。だが、その顔は笑っていた。

「くっはっ……はは、こんな奴まで居るのか……これだから止められないぜ。」

ユウも進む。ただし、前に踏み出すのではない、滑り込むように腰を低く落として波打つように京の間合いを抜き、腰を抱きこんだ。
螺拳もさっきの正体不明の打撃も出せない密着状態に持ちこんで両腕に力を込めた。ギチッと締め付けられながら、決して大きくは無い京の
身体は軽々と宙へとつり上げられ次の瞬間、京は地面に叩きつけられた。路地にとてつもない音と衝撃が響いた。

「ぐっ!?」

叩きつけられ顔を歪めるも京はノータイムで飛び起きて反撃に出る。ダメージが無いわけはない。ひたいに汗の玉を溜めて肩で息をしている。立つものは相手にするとばかりにユウはまた構えを変えた。胸元に両手を置いてステップを刻む、ボクシングstyle。
二人の間合いは遠からず近からず。どっちかが少しでも前に出れば即互いの射程内。それでも分はユウにあった。数回のぶつかり合いで京のstyleを分析しつつあった。
威力は高く、隙もなく、出も速いと理想的な武術だが……間合い、打撃を基本にした格闘技において超至近距離からの攻撃に対しては不慣れなのだ。故にユウは狙いを絞りこむ、最短の最速で敵の懐に入り込み急所を穿つために。


対する京は……両手をまっすぐに前に伸ばしていった。

「お前が何をしたいのかは己(おれ)には分からない。けど……お前がなにか信念があるのは分かる。それでも……己の信念(愛)はそれよりも強い!!」

「そのみょうちくりんな構え、本気になったというわけか。だが、それでも貴様は俺には勝てん!」

先に踏み込んだのはユウだった、キルゾーンへと侵入し、硬く握った拳が京の頭部を打つ。だが、そのストレートブロウは虚空を穿つ。
消えた……のではない、京は数コンマ遅れて踏みだし、突きだした両手を百八十度大きく振り背後を打ったのだ。

「臥劉螺風掌!!」

後ろに居た独は見た、臥劉の背中に土ぼこりが竜巻風になって巻きあがるのを……。まるでジェット噴射を使ったように京はユウの懐へと飛び込み、顔と顔が交差する刹那にいった。

「この技は間合いは短いが……螺掌より重いぞ!!」

いくら最速で細やかにパンチを放つボクシングスタイルでも打ちだした拳を即座に戻すことなどできはしない。京の右腕の皮膚が筋肉が螺旋状に絞られてく、左足を地面に固定して右足で力強く地面を踏みつけると同時に右腕を折りたたみ肘をぶつけた。

「が・りゅ・うっ……螺頂肘(らちょうちゅう)!!!!」

悲鳴を吐く余裕もなかった。全力の一撃をまともにくらった奴は身体を大の字に広げて壁に突き当たるまで吹っ飛んだ。一瞬ぶつかった壁に張りつくも、すぐに前倒れになりうつぶせたままピクリとも動かない。
壮絶なやりとりを目の当たりにした独はハラハラと落ちてくる物に気がついた。黒い布のようなもの……視線を泳がせながら京を見るとギョっと身体が固まった。

縛っていた髪は紐が千切れて、極上の絹糸のように靡き、シャツは無数に引きちぎれ胸のサラシもほどけて谷間が覗き、ズボンに至ってはほぼ原形をとどめていなく、真っ白い下着が丸見えになっていた。ひと言でいうと半裸状態だ。独は思い出していた、全力で臥劉螺拳を使うと服が耐えられずにビリビリに引き裂けると。
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