ー新伝ー伝説を継ぐもの

ー和龍軒前ー

夕方、夜に差し掛かる時間帯。東口に居た一団を引き連れて千夜は帰路についていた。

戌塚「結局さっきの奴はなんだったんだぞと」

千夜「さぁな。」

「てゆーか、アレがタカナシユウなんですか?」

千夜「いや、アレは偽物……ん?」

悠(?)「ど~もぉ」

先頭の千夜が立ち止まり、何事かと他の者たちが前を見ると、今のさっきボコボコにされた男が待ち構えていた。当然服は泥だらけで血反吐の滲みもあり、垂れ下がった前髪の隙間から見える唇は所々ぱっくりと縦裂けている。少なくとも手加減された様子は無い。

戌塚「千……」

千夜「なんだ……お前か」

悠(?)「その節はどーも、いやぁ、シメられちゃったよ。それに騙された。和辰千夜……そっちの戌塚誠より上位ランカー」

千夜「っで、ここへ何しに来た?」

悠(?)「それは……リベンジ(復讐)に」

戌塚「お前……。」

千夜「いいだろう。ただし、お前が止めたくなったとき、逃げ出したくなったとき、その時どうするのか、それを考えとけ……」

この時……

悠(?)「頭のてっぺんからつま先まで……良い男じゃん」

全員の脳裏に去来した思い……

千夜「全員、壁際に下がれ」

目のまえで殺人が起こる……

千夜は両手をズボンのポケットに突っ込んだ。ハンドポケットstyle。一見して無作法でいてハンディのある構えだが、そのstyleに秘められた技術は次世代の武術へと昇華しつつあった。ドンドンと地面を踏みしめる。

その足踏みに皆一斉に散り始めた……っが、ゴンっと鈍い音とともに千夜の姿が消えた。

戌塚「千……?!」

千夜「がぁっ……?!」

不意打ち、油断、後手、後悔、未熟、慢心……一瞬だった。合図もなく、ユウは全速力でかぶりつき千夜の顔を押さえつけて後頭部を地面にたたきつけたのだ。眼潰しの比では無い。完全な不意打ち。それに気がついたのは倒された千夜ではなく壁際に行こうとした他のランカーらだった。馬乗りになって押さえつけるユウを引きはがそうとする。

「不意打ちだ!」

「止めろ!」

「コラアァ!!引きはがせ!!」

怒濤の勢いで群がりユウをどかそうとするが一括に全員の動きが止まる。

千夜「止めるなッ!!」

悠(?)「……」

戌塚「せ、千……」

千夜「離れろン…全員離れろ……続けるこのまま、止めることはゆるさねェ……邪魔する奴は殺す」

ユウは笑う。

悠(?)「和辰千夜……流石だっ!」

ゴチュッと歪な音が鳴った。千夜の顔にユウのヘッドソバット(頭突き)が落ちる。一度では無い、何度も何度も落ちる。後頭部をぶつけ、身体の自由は効かず、馬乗り状態で反撃も防御にも転じれない男に何発もの頭突きをうけ、見る見るうちに顔が潰れていく。

誰も止めるなという千夜の命令に背いたのは戌塚だった。このままでは千夜が殺されると思ったのだろう。馬乗りの男へ飛びかかろうとしたその時、目のまえに金色の帯が走った。同時に一陣の風が吹き、鋭い声が突きささる。

「そこまでデスワ!!」

真横からの顔目掛け蹴りを仕掛けるデイジー。馬乗りになっている男はゴロゴロと転がりそれを避け立ち上がる。

悠(?)「弱ったな……こんな可愛らしいお嬢さんが現れるなん……。」

デイジー「ヒーローというモノは遅れて登場するものデスわ。」

千夜「げほっ……じゃま……しやがって…」

朝露「生意気な口は立ち上がってからほざくのね」

悠(?)「どーやら、ここまでみたいだな」

デイジー「あら、私が逃がすと想いマシテ?」

悠(?)「ははは~。君みたいな美しい少女に追われるのは実にうれしいことだけど……警察には厄介になりたくなくてね」

騒ぎに通報されたのか、サイレンの音が近づいてくる。それに気づき皆散り散りに逃げだした。
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