ー新伝ー伝説を継ぐもの

ーとある事務所ー

パソコンの画面に羅列された記事と画像に目を通していく。

坂神羅漢、現空手界の国宝……。数少ない実戦空手を一代の手で世に広めた大物……。齢五十を越えるとされ現役としてはもはや限界か?素手で熊や牛を倒した伝説……。空手は時代遅れ、近代総合格闘技こそ最強……。

善し悪しもある記事とスレッドの山に俺は小さく笑った。それと同時に無念が覆いかぶさる。昨日は勿体なかった。坂神羅漢、あれほどレベルの高い相手とはなかなか合い間見れないのに……。あのゴリラみたいなヤクザもかなり良かったなぁ……。惜しい……思い出してもため息が出る。惜しいといえばこの前の少女も惜しかったな……あのときガキ二人に邪魔されなかったら、素敵な事になってたに違いないのに……。

「はぁ……。」

「……さん?……ューサーさん?プロデューサーさん!」

肩を叩かれて、俺はハッと我に返った。事務員の音無小鳥さんが小首を傾げていたので、営業スマイルを作る。

「どうしました?なにか悩み事でも?」

「いえ、なんでも無いです。ただ……」

「ただ?」

「少し、疲れが出てるのかも知れません。このところ仕事とプライベートがゴタゴタしてるし。」

話しながらノートパソコンに開いてあるウィンドウを小さくした。

「仕事が忙しいのはそれだけ敏腕って事ですよ。」

「まぁ、当然ですね。俺は一流ですよ。」

俺は足を組んでわざとらしくメガネの縁をクイッとあげた。気分は映画に出てくる悪役。

「おぉ~、随分と強気ですね」

「何事も気迫で負けちゃいけないからね。初発からかまして、グラついた所にトドメの一撃。それでノックアウトさ。」

昨日はそのコンボが崩されちゃったが……。アレは例外だな。受け身も取れないように壁に叩きつけたのに平気な顔で起き上って来たあのおっさんが異常だった。アイツも武道家かなにかだったのか…ン。確か、ケンジとか呼ばれていたな……。

「それにしても、プライベートとがゴタゴタしてるって何かあったんですか?」

「んー……いや、はは。」

「あー、なにか誤魔化しましたね?」

「そんな事ないですよ。」

「本当ですか?なーにかいかがわしいこととかしてたりして」

「はは、酷いなぁ。」

いかがわしい事はしていない。夜な夜な街に出て適当に喧嘩相手を探したり、夕方、小学校のまわりを散歩して下校する少女たちを眺めたり、着いていったりしているだけだし。

「あ、そうだ。織野さんはまだ帰って来てない?」

「あー……多分、カエルちゃんとのお仕事が終わったら直帰するんじゃないでしょうか」

「そっか……。雑誌の記者から連絡あったんだけど……メールでも送っとこうかな。」

「取材のお仕事ですか?」

「そう。ゲーム雑誌だけどね。ほら、彼女、カエルちゃんてゲーム好きっていってたし良いんじゃないかと思ってね。杏(あんず)はやる気無いから雑誌取材とかにやる気を出さすのめんどくさいし……。」

音無さんは困ったような顔でわらった。

「杏ちゃん、この前CD出したときはすっごい頑張ってたのに」

「CDが出てそこそこ売れだしてるから、もう印税生活するって本気ニートモードです。」

「あちゃあ……。」

あのだらけっぷりはだらけっぷりで可愛いんだが……一日中ゴロゴロしてるところを視姦したい……ジュルリッ、おっと涎が出てしまうところだった。

「さて、じゃあ、俺も帰ります。」

今日は池袋東口の方にいってみるか……。

「お疲れ様です。小鳥遊プロデューサー」
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