ー新伝ー伝説を継ぐもの【4】
ー蒼天塔:闘技場ー
対面した男の一挙一動に鬼は笑った。仮面の下で……。一歩後退して帯を締め直す。
「こいつぁ。相当なもんだな…。」
「わたしも同じことを思っていたところですよ」
着いていた杖をコツンと闘技台のわずかな隙間に突き立てて十一は見えていない目で黒般若を見据える。
「どんな相手が来るのかと思っていたら、とても大きい。足音から察するにかなりの剛体、鍛えこんでいる。」
十一は突如足を振り上げた。ヒュッと風を斬る音とともにごくごく小さい小石のような物が黒般若の耳をかすっていく。
「おや……よけなかったね……」
洞察力、視力以外のすべてを総動員した洞察力。黒般若こと雲水も色々な相手と闘ってきた。あるときは拳法家、あるときは対武器、あるときは獣……そのどれとも違う気配。
十一は掛けていたサングラスを外す。
「先に言っておこう。不意打ち、武器の使用、多人数、いずれも厭わない」
「勇ましいんだな」
「正々堂々は要求しない。技量にとどまらず、実力、強さ、腕っ節、ナンバーワンなのだからね。そして……困ったことに嬉しいのだよ
。ケンカの機会があるとね、嬉しくってしょうがない。」
動きだしたのは十一からだった。飛びかかりも、力強い踏み込みもない、ただゆっくりと平然にまっすぐまっすぐと歩み始める。
「奇遇だな、オレもそうなんだよ。ケンカってことになるとワクワクしちまうんだ。」
話しながらも雲水は動かない。相手の歩みをただ見続ける。
「ふふっ、記憶(おぼ)えておくのだ。若き修行者よ」
「若い?がはは、この歳で若いなんて言われちまうとはなぁ。」
雲水の目のまえすれすれで立ち止まる十一。既に間合いだけなら両人とも近過ぎるくらいの至近距離。
「視覚とは……数ある感覚のひとつにすぎない。」
いい終わるか終わらないかの刹那、十一は足を振り払った。軌道が孤を描き黒般若の右側頭部を穿ち飛ばした。
「ぐぅ……!」
鼻も触れそうな超至近距離で強烈な脚撃を見せた十一が魔物なら、それを紙一重で手の甲で受け止めた雲水も化け物だった。だが、直撃を受け止めたが雲水の巨体は傾いていた。
その隙を逃すほど十一は優しくない。
「届いてくる声の角度は君の身長を伝えてくれる。」
声はいたって冷静。だが、動きは魔物。上げた足を地面に付けると同時に直拳が黒般若面のど真ん中を撃ちつけた。
「がっ……!!」
面が無ければダメージはもう少し少なかったかもしれない。っが、面が無ければ人中を穿たれていただろう。その、拳のあまりの威力に雲水の目のまえの景色は歪んでいた。その耳に声だけは聞こえてくる。
「踏みしめる大地の音色はキミの体重を正確に刻んでくれる。」
そのとき、ドッと雲水の背中に何かがぶつかった。いつの間にか壁際まで押しやられていた。
「キミの太い声」
再び十一の拳が迫ったが、揺れる視界の中で首を振ってその一撃を避ける。べギャンといびつな音。頭が有った位置の鉄格子に拳がめり込んでいる。
「尋常ではない頚部の発達が窺える。頑丈(タフ)だ。」
十一の攻めは止まらない。鉄格子から拳を引き抜いて手刀の形で、敢えて褒めた頚部を狙い。斬り裂きにかかったが、黒き鬼がやられっぱなしでは終わらない。両足で地面を踏みしめて跳躍し体格からはよそう出来ないほどの跳躍を見せ、空中で背後の鉄格子を後ろ脚に蹴り、反動と勢いを着け急降下に飛び蹴りを仕掛けた。
対面した男の一挙一動に鬼は笑った。仮面の下で……。一歩後退して帯を締め直す。
「こいつぁ。相当なもんだな…。」
「わたしも同じことを思っていたところですよ」
着いていた杖をコツンと闘技台のわずかな隙間に突き立てて十一は見えていない目で黒般若を見据える。
「どんな相手が来るのかと思っていたら、とても大きい。足音から察するにかなりの剛体、鍛えこんでいる。」
十一は突如足を振り上げた。ヒュッと風を斬る音とともにごくごく小さい小石のような物が黒般若の耳をかすっていく。
「おや……よけなかったね……」
洞察力、視力以外のすべてを総動員した洞察力。黒般若こと雲水も色々な相手と闘ってきた。あるときは拳法家、あるときは対武器、あるときは獣……そのどれとも違う気配。
十一は掛けていたサングラスを外す。
「先に言っておこう。不意打ち、武器の使用、多人数、いずれも厭わない」
「勇ましいんだな」
「正々堂々は要求しない。技量にとどまらず、実力、強さ、腕っ節、ナンバーワンなのだからね。そして……困ったことに嬉しいのだよ
。ケンカの機会があるとね、嬉しくってしょうがない。」
動きだしたのは十一からだった。飛びかかりも、力強い踏み込みもない、ただゆっくりと平然にまっすぐまっすぐと歩み始める。
「奇遇だな、オレもそうなんだよ。ケンカってことになるとワクワクしちまうんだ。」
話しながらも雲水は動かない。相手の歩みをただ見続ける。
「ふふっ、記憶(おぼ)えておくのだ。若き修行者よ」
「若い?がはは、この歳で若いなんて言われちまうとはなぁ。」
雲水の目のまえすれすれで立ち止まる十一。既に間合いだけなら両人とも近過ぎるくらいの至近距離。
「視覚とは……数ある感覚のひとつにすぎない。」
いい終わるか終わらないかの刹那、十一は足を振り払った。軌道が孤を描き黒般若の右側頭部を穿ち飛ばした。
「ぐぅ……!」
鼻も触れそうな超至近距離で強烈な脚撃を見せた十一が魔物なら、それを紙一重で手の甲で受け止めた雲水も化け物だった。だが、直撃を受け止めたが雲水の巨体は傾いていた。
その隙を逃すほど十一は優しくない。
「届いてくる声の角度は君の身長を伝えてくれる。」
声はいたって冷静。だが、動きは魔物。上げた足を地面に付けると同時に直拳が黒般若面のど真ん中を撃ちつけた。
「がっ……!!」
面が無ければダメージはもう少し少なかったかもしれない。っが、面が無ければ人中を穿たれていただろう。その、拳のあまりの威力に雲水の目のまえの景色は歪んでいた。その耳に声だけは聞こえてくる。
「踏みしめる大地の音色はキミの体重を正確に刻んでくれる。」
そのとき、ドッと雲水の背中に何かがぶつかった。いつの間にか壁際まで押しやられていた。
「キミの太い声」
再び十一の拳が迫ったが、揺れる視界の中で首を振ってその一撃を避ける。べギャンといびつな音。頭が有った位置の鉄格子に拳がめり込んでいる。
「尋常ではない頚部の発達が窺える。頑丈(タフ)だ。」
十一の攻めは止まらない。鉄格子から拳を引き抜いて手刀の形で、敢えて褒めた頚部を狙い。斬り裂きにかかったが、黒き鬼がやられっぱなしでは終わらない。両足で地面を踏みしめて跳躍し体格からはよそう出来ないほどの跳躍を見せ、空中で背後の鉄格子を後ろ脚に蹴り、反動と勢いを着け急降下に飛び蹴りを仕掛けた。