ー新伝ー伝説を継ぐもの【4】
ー蒼天塔:闘技場ー
『さぁぁ、レディ……ゴォォォっ!』
実況のスタート宣言とともにゴングが鳴るも、ふたりの巨体はその場から動こうとしない。観客からのヤジが飛び交う中、レスラーが小声で話しかけてくる。
「よう、どうだおっさん。わざと負けてやろうか?」
「あ?」
「俺はな此処にあがればギャラが入る。勝ては二倍だ。その十倍払うって言うんならわざと負けてやっていいぜ」
その言葉を聞いて雲水ことブラックオウガは大笑いした。
「がっははははっ!阿呆、オレに勝てたらその百倍のギャラを払ってやる。」
「その言葉、忘れんなよっ!!」
レスラーは水平に腕を払ってチョップで首を凶撃した。しかし、その腕は完全に空を切る。黒般若が消えたのだ。いや、正確には消えたわけではないその巨体とは裏腹な柔軟性で足を開いて身を屈めたのだ。
そこからの決着はほんとうに一瞬だった。屈んだ状態で拳を打ち出すとレスラーの股間を穿った。雲水は即座に立ち上がり今度は腕を水平に振るうとレスラーの顔から鼻が無くなった。そして、足を一歩引いてドッと正拳の突きが胸に深々と刺さった。拳を引き抜き姿勢を整える。
悲鳴をあげ間も与えられず、剛力山は睾丸に鼻、胸骨を粉砕され倒れた。正面から打たれたはずだが背中にはじわっと皮下出血が広がっていた。
静まり返る観客、実況の男ですら何が起こったのか理解するまでに時間がかかった。その静寂を打ち破ったのは黒般若の声だった。
「おい、このボンクラを医者に連れてってやれ死ぬぞ」
『あ……医療班!すぐに運んでやって!!』
バタバタと数人の人間が慌ててリングにあがりタンカーに乗せようとしたがビクともしない。見かねた黒般若がタンカーに乗せてやると今度は持ちあがらず、さらに数人の男を呼び付けて六人がかりでようやく運びだしていった。
整形手術にしばらくは流動食生活だろうな……と運ばれていくレスラーを見つめながら拳二は呟いた。
「あっけねぇし、おっかねぇな」
「まったくだな。あのガタイであの身のこなし……ヘヴィー級なのにフェザー級の動きなんて舐めてるとしか言いようがない。」
観客として眼を凝らしていた寅も、雲水の動きを一手一手すべて見えてたわけではなかった。特に最後の正拳突き、気がついたときには終わっていたとしか言いようのない速さと分厚に胸の筋肉と堅牢な胸骨を打ち砕く破壊力。冗談のような凶器の拳を目の当たりにしたのだ。寅は首を振っていた。その顔は笑っているものの眼は決して笑っていなかった。
「まだまだ……あんなのは準備運動にもなっちゃいない」
「でも、先生は魅せることを分かってるからね。しっかりと観客を沸かせた」
雷太郎と風太郎はどこか誇らしげに話すが、客席を沸かせるどころか引いている気がすると寅は思いはしたが口には出さなかった。
「どっちかってーと、客引いてるだろ」
そんなことなど気にせず拳二は言い切った。空気を読むという行為は出来ない人種らしい。
「「おっさん、空気読めよ」」
声を揃えて文句を言っている風雷コンビ。ホントに緊張感が無い。そうこうしていると実況のやかましい声が響いた。
『さぁぁ、待たせたなcrazyども。けどけどけどけどぉぉ、あそこにいる鬼こそが本当のcrazy!!さぁ、前座は終了だ。これからが本当の本番!鬼に勝つには鬼をぶつけるしかねぇ。盲目のモンスタァァァ物部じゅゅゅゅゅぅいちぃぃっ!!』
拍手や声援に促され噂の盲目空手家が杖をつきながらゆっくりと姿を見せた。本物の盲目らしくその動きは健常者のそれと変わらない。目が見えないとなれば音を頼りにしているだろうのに寸分狂わず舞台まで歩いていき、雲水のまえに立った。
『さぁぁ、レディ……ゴォォォっ!』
実況のスタート宣言とともにゴングが鳴るも、ふたりの巨体はその場から動こうとしない。観客からのヤジが飛び交う中、レスラーが小声で話しかけてくる。
「よう、どうだおっさん。わざと負けてやろうか?」
「あ?」
「俺はな此処にあがればギャラが入る。勝ては二倍だ。その十倍払うって言うんならわざと負けてやっていいぜ」
その言葉を聞いて雲水ことブラックオウガは大笑いした。
「がっははははっ!阿呆、オレに勝てたらその百倍のギャラを払ってやる。」
「その言葉、忘れんなよっ!!」
レスラーは水平に腕を払ってチョップで首を凶撃した。しかし、その腕は完全に空を切る。黒般若が消えたのだ。いや、正確には消えたわけではないその巨体とは裏腹な柔軟性で足を開いて身を屈めたのだ。
そこからの決着はほんとうに一瞬だった。屈んだ状態で拳を打ち出すとレスラーの股間を穿った。雲水は即座に立ち上がり今度は腕を水平に振るうとレスラーの顔から鼻が無くなった。そして、足を一歩引いてドッと正拳の突きが胸に深々と刺さった。拳を引き抜き姿勢を整える。
悲鳴をあげ間も与えられず、剛力山は睾丸に鼻、胸骨を粉砕され倒れた。正面から打たれたはずだが背中にはじわっと皮下出血が広がっていた。
静まり返る観客、実況の男ですら何が起こったのか理解するまでに時間がかかった。その静寂を打ち破ったのは黒般若の声だった。
「おい、このボンクラを医者に連れてってやれ死ぬぞ」
『あ……医療班!すぐに運んでやって!!』
バタバタと数人の人間が慌ててリングにあがりタンカーに乗せようとしたがビクともしない。見かねた黒般若がタンカーに乗せてやると今度は持ちあがらず、さらに数人の男を呼び付けて六人がかりでようやく運びだしていった。
整形手術にしばらくは流動食生活だろうな……と運ばれていくレスラーを見つめながら拳二は呟いた。
「あっけねぇし、おっかねぇな」
「まったくだな。あのガタイであの身のこなし……ヘヴィー級なのにフェザー級の動きなんて舐めてるとしか言いようがない。」
観客として眼を凝らしていた寅も、雲水の動きを一手一手すべて見えてたわけではなかった。特に最後の正拳突き、気がついたときには終わっていたとしか言いようのない速さと分厚に胸の筋肉と堅牢な胸骨を打ち砕く破壊力。冗談のような凶器の拳を目の当たりにしたのだ。寅は首を振っていた。その顔は笑っているものの眼は決して笑っていなかった。
「まだまだ……あんなのは準備運動にもなっちゃいない」
「でも、先生は魅せることを分かってるからね。しっかりと観客を沸かせた」
雷太郎と風太郎はどこか誇らしげに話すが、客席を沸かせるどころか引いている気がすると寅は思いはしたが口には出さなかった。
「どっちかってーと、客引いてるだろ」
そんなことなど気にせず拳二は言い切った。空気を読むという行為は出来ない人種らしい。
「「おっさん、空気読めよ」」
声を揃えて文句を言っている風雷コンビ。ホントに緊張感が無い。そうこうしていると実況のやかましい声が響いた。
『さぁぁ、待たせたなcrazyども。けどけどけどけどぉぉ、あそこにいる鬼こそが本当のcrazy!!さぁ、前座は終了だ。これからが本当の本番!鬼に勝つには鬼をぶつけるしかねぇ。盲目のモンスタァァァ物部じゅゅゅゅゅぅいちぃぃっ!!』
拍手や声援に促され噂の盲目空手家が杖をつきながらゆっくりと姿を見せた。本物の盲目らしくその動きは健常者のそれと変わらない。目が見えないとなれば音を頼りにしているだろうのに寸分狂わず舞台まで歩いていき、雲水のまえに立った。