ー新伝ー伝説を継ぐもの【4】

ー王の事務所ー

ゆったりとした足取りで王はぐしゃぐしゃに荒れてしまった部屋に踏み込んだ。まだ、数人残っていたフーチェンの親衛隊はそれを止めることなく、王を取り囲みながらも間合いを取る。触れたら爆発する危険物でも見るように怯えているのだ。

王「ずーいぶんと刺激的な恰好してるねん。るーりちゃん」

瑠璃「お恥ずかしい……見苦しい格好で申し訳ありません」

王「いいよん。そういうのもありだわん。ね?フーちゃん」

威嚇も脅しも何もない。ただ、ただ、陽気に無邪気に王は虎城に問いかける。今のさっき人間を肉塊に変えた男とは思えない酷く不気味雰囲気だった。

虎城「……なるほど、この程度では怒りはしませんか……失敗ですね。」

王「怒る?誰が?」

虎城「どこまでもふざけやがって……もういい。所詮てめぇはタダのキチガイ。ここで殺してやるよっ!!」

王「んー、なんか酷いこといわれてるわん」

瑠璃「気を付けてください王さま!その男、妙な技を使います!」

瑠璃の言葉が王の耳に届くよりも早く、虎城は動いた。それだけで稲妻の帯が虎城を追って駆け抜ける。

踏み込むというより地面と自身の体が接触するように滑り込み、王の真下から真上垂直に足を突き上げて顎を踏み飛ばした。

棒立ち状態だった王はそれが直撃する。

虎城はあざけ笑い。王の腕を双按で打ち、その反動を利用して身体を翻し腰を、肩を、腹を、脛を連続に蹴り、トドメに雷撃を正面から浴び穿つ。
虎拳(フゥチュアン)擔地髀蓮五式(タイテンバイレンウーシ)。

室内でコンデンサーが暴発したかのように無数の雷光が飛び交い、そこら中を焼け焦がした。

虎城「……あ!?」

腕を突き付け丸焦げにしたはずの王を見た。辺りはまだバチバリっと余雷が飛び散っているのに、王は気にした様子なく突き付けている両手首を掴んだ。

王「……」

虎城「くっ……穿(ツワン)!」

とっさに反応したのはやはり虎城が達人だからであろう。掴まれた手首を支点に地面を踏み、勢いを付けて再び王の顎を蹴り飛ばした。そのまま空転を繰り返して王から離れる。

王「……」

虎城「ちっ……地の力が弱かったか。しょうがねぇ次は本気で……」

拳を構えなおそうとしたが……無くなっている。

王「あーぁ……バタバタするから。取れちゃったね。」

顎を二度も真下から蹴りあげられた王だがダメージどころかかすり傷一つなく自分の手の中に有るものを握りつぶす。肉が骨が血管が潰れる音。

虎城「で……てっ…てぇっ…手ェえぇぇぇ……!!」

無くなったものに気がついた時にはもう遅く、力んだせいも相まって冗談のように傷口から鮮血が吹き出した。

王「もっと強くて賢い子だと思ってたのに……残念。もういいよ、君」

虎城「ちょっとま……ホラ…コレ……」

冷静さも怒りも誇りも心すら「手首」ごと折れてしまったのだろう、今にも泣きそうな命ごいをするような声で腕を突き付けるが……。

王「バイバイ♪」

構えもなにもなっていない大振りの拳が虎城の顔を潰し首がおかしな方に曲がりながら地面を転げ、人だったものへと化した。取り巻きたちは逃げ出そうとしたが皆、次の瞬間首だけを落として身体は走りだしたがすぐに崩れ落ちた。

ジュリエッタ「ご無事ですか王殿!その他の皆さま!!」

王「あー、うん。ちょうど終わったところだわん。うるタン立てる?」

漆原「ぅっ……はっ……す、すみません。」

王「んっ、銃を出したらすぐに撃たないとー。こんな風に」

王はへらへらと二度引き金を引いた。昏睡状態で倒れている王の部下たちの頭を撃ち抜いて銃を漆原に返す。

瑠璃「どうしますか……ここ?」

王「焼いちゃお。ジュリジュリ」

ジュリエッタ「既に一階はガソリンをブチまいてありますぞ。残りのガソリンもここに」

王「はい、よくできました。はーい、それじゃぁ火災訓練しますよー。」

生きた人間は居なくなったのち、王の事務所は爆炎に包まれた。
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