ー新伝ー伝説を継ぐもの【4】

ー王の事務所ー

漆原「ぐ……ぉ……」

虎城「おっと、まだ銃を拾おうとしますか。まったく、大人しくしていてくださいよ。」

必死の力で這いずり腕を伸ばした漆原だったが、虎城は子供からおもちゃでも取り上げるように床に落ちている銃を拾った。その間にも虎城の部下たちは瑠璃に迫っていた。

部下A「……」

部下B「……」

瑠璃「近づいたら……」

虎城「辞めておいた方がいいですよ。瑠璃殿、素人の貴女が抵抗したところでどうにかなる相手でも無し。いや……むしろ、その方がいい感じになりますか暴行されたという感じに……ね。」

部下A「……」

部下B「……」

無言のまま男たちは瑠璃を力づくに掴みあげた。

部下A「っ!?」

部下B「っ!?」

瞬間、無表情だった男たちの顔が僅かに歪み片方の男が平手で瑠璃の頬を叩いた。大の男のがむしゃらというか力任せの一撃を浴びせられ彼女は簡単に弾き飛ばされ床に叩きつけられた。服を掴まれていたのか上着はもう服としての役割を果たせない布と化している。

虎城「ふふっ、本当に乱暴にするとは……おや?」

部下A「ぁ……がっ……ごぉぉ……」

部下B「ぐ……ぐぅー……ぐぅー……」

男たちは直立不動のまま受け身も取らず顔面から前倒れになり、べちゃりっと床に伏せ落ちた。さらに高いびきをかき始める始末。

同じように床に倒れていた瑠璃がむくりと身体を起こしていった。

瑠璃「げほっ……確かに、私は力もないし銃の扱いなんてできないけれど……。こういう物は扱いなれてるわよ」

彼女が見せたのは小型のナイフ。いや、手術などに使われる鋭利なメスだ。刃先には血が付着しているので多分、男たちを傷つけた。そしてその痛みで反射的に男たちは瑠璃を叩いた。

虎城「ほう、そういえばエンバーミング(死体修復)が瑠璃殿の仕事でしたね……しかし、何故私の部下たちが眠っているのか……毒か。小娘」

瑠璃「ご明察。人間なら体内に入るだけで眠る麻酔よ。まぁ、後遺症がバリバリ残るからタダの毒といったほうが正しいわ……ねっ!」

瑠璃は何本かメスを取り出して見せる。そしてその内の一本を虎城に向かって投げた。投擲としてはそこそこ、しかし虎城は達人。素人の投げた刃物など易々と避けた。

虎城「やれやれ……とんだ食わせものだっ!」

奴は地面を踏みこみ、腕を振った。足からまたも電流が発生し、身体を伝い指先からイカズチが発射される。

瑠璃「ふっ!」

短く息を吐いて瑠璃は斜め上にメスを放り投げる。バキンっと音を立ててイカズチはメスを撃ち抜く。

虎城「むっ」

瑠璃「例え氣というものが存在していて、お前が不可思議な術を操っているのだとしても、正体が地電流ならば流れやすい方へ行くのが道理……自慢げにネタばらししたのはまずかったわね」

虎城「たかだか去勢いっぱいでメス投げしかできない小娘が……この虎城をどうにかできるとでも思ってんのか!?あぁ!?」

今までのすました口調はどこへやら、臆面もなく叫びフーチェンは踏みこむ。べゴッと床が凹みバチチッと雷電が虎城を中心に光唸る。

瑠璃「くっ……」

そう……所詮、去勢は去勢。毒メスとて相手に刺さらなければ効果は無いし、近づいてどうにかなる相手ではない。……かといって、投げ続けれるほどメスの残数もない。虎城の後ろにはまだ数人の屈強な部下も控えている。結局……自分は死なないにしろ無事では済まない。瑠璃はそう思った時だった……。

部下C「ごぁ……!?」

瑠璃「!?」

ひとり目は…超大柄の男だった。150キロを超える巨体が宙を飛び。整然と並べられていたデスクをただの鉄くずに変えながらそれでも止まろうとしなかった。

部下D「ぎゃぁぁぁぁ!!!」

ふたり目は虎城の親衛隊のひとり攻撃をガードしたと思われる形のまま腕が蛇腹状に折れながら崩れ落ちていく。目のまえで…人間があっけなくただの肉塊に変わっていく。こんな真似ができるのはただひとり……。

王「んー、新しい事務所なのにもう汚れちゃったねん」

王狐文……その男の登場だった。
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