ー新伝ー伝説を継ぐもの【4】

ー屋上ー

妙見は例の手形を作ると右手を胸の上、左手を胸の下に構えた。見た目はある意味、合掌。しかし、中身は凶悪で奇妙。見えているのに何が起こっているのかが分からない。名は体を現すというが……妙見。そのものだった。

その異独特の闘技法に臥劉京も攻めあぐねている。

京「……」

妙見「ふーーっ……。」

手、足の長さは当然、大人で男の妙見の方が長い。しかし、圧倒的に体力はがりゅーの方が勝っている、それでも……。

京「はぁっ!とりゃっ!!」

がりゅーが繰り出す拳からは突風が発するほどの豪快さ。しかし、妙見には当たらない。確実に捕えているだろうという距離なのにスレスレに身体をくねくねと反らし、揺らし、ただの一発も当たりはしない。

妙見「ひっ、ふっ、はっ!」

対して、妙見の攻撃もヒットは無い。ヒットこそはないが……まるで刃物の切っ先がかすったように京の頬や服の一部に傷が残っている。いや、今も増え続けている。

独「くそっ……。」

なんとか立ち上がれる程度には回復したが……踏みこめない。毎日コツコツと鍛錬は続けて来ていた。いや、続けてきたからこそがりゅーの強さのケタが違うと身にしみるのだ。

ある意味、独の成長は達成を得ていた。それは目、短期間に出会い続けた強者たちに揉まれた結果、肉体の成長はそこそこであるにしても相手の戦力を計ることにかけては超一流の眼力を手に入れたのだった。ただし、その分、危険なものには過敏になっても居た。

京「……はは」

妙見「おや、なにかおかしいですか?」

京「すごいな!全然当たらない!」

独「えぇっ……」

妙見「……」

京「己も色んな技を見せてもらってきたけどそんなのは初めてだ!すっごい驚いた!」

得体の知れないものを、自分の知らないものを普通の人間は警戒し、恐怖を抱く。しかし……臥劉京、彼女は違った。闘うのが好き、ではなく。相手を叩きのめしたい、わけではなく。純粋に自分と思い人の為に闘い。敵だろうといいところはすかさず褒める。妙見が奇妙というのなら、ある意味、がりゅーも奇妙ではないのだろうか。

妙見「貴方は……なんのために我々が争っているのか分かっていますか?」

京「わかってる。己の愛の大きさを伝える闘いだ!」

妙見「……どうやら、根本的に分かっていないようですね。」

京「分かっていないのはお前だ!」

妙見「……ひとついっておきます。愛とは慈しむもの貴女の愛など幼稚な我儘に過ぎないのですよっ!!」

京「お前が愛を知らないだけだっ!!」

独「……」

たった、数十分のなかでどれだけ「愛」と「好き」という単語が飛び交い合うのだろうか……。

妙見「愛を……知らない?なめるなよクソガキがァァァっ!!」

京「!!」

独「!?」

妙見「もういい、テメーは病院のベッドに括り付けて凶育(きょういく)をしてやらぁぁ!」

なにが琴線に触れたのか……今までとはひとが変わったように大声で吠えた。両手はもはや垂直かつ鋭利な刃物の如く鋭くとがり、「慈愛」という意思を残していない。本気で殺す気……なのでは?

独「っ……がりゅー!逃げっ…」

京「すぅぅっーー……はあぁぁぁぁーー……これで決める。」

彼女は引かない。だが、それでも初めて護りの構え(?)になっていた。左腕を胸元にべた付けにして極限まで捩じりこんでいた。相手の突きを受け止める気なのか。考えている間など無い、ブレーキの壊れた古代戦車のような勢いで妙見は突っ込んでくる!!

妙見「うぉぉぉぉっ!!」

京「臥劉螺昇拳(らしょうけん)っっ!!」

妙見の刃(手)は確かに京の腕を貫いた。対して、京の拳は真上、垂直に突き上げられる。敵を狙ったわけではない。だが、極限、いや、限界を超えて肉体を捩じに捩じられ強靭な一撃を撃つ臥劉螺拳、それを解放した瞬間、妙見の腕はがりゅーの腕に巻き込まれていく。

高速回転するファンに絡んだ糸のように巻き取られ、その遠心力がなくなるその瞬間、妙見は落下防止用のフェンスに叩きつけられぼろ雑巾のようになりはてて地面に落ちた。
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