ー新伝ー伝説を継ぐもの【4】

ー屋上ー

三人が屋上に来てから十数分、既に独は膝が笑うほど打ちのめされていた。ひと言でいうのなら「妙」だった。闘い、つまりは喧嘩だがあまりにも静々としていてあまりにも派手さが無い。

最初こそ妙見がステップで独を翻弄していたが、今はもうただ一方的に軽く突いたり、押したりするだけだ。

独「はぁ、っ……。」

力いっぱい殴られたわけではない、それでも頬、肩、腕、腹にできた痣。触れただけで走る激痛は動くこと以上に体力を消費しつづけた結果……ついに、独は膝をついた。

妙見「よく、頑張りましたが……ここまでですね。」

見下ろす妙見は涼やかな顔、そのもの。疲労もない達観した笑顔で独を見下ろしていた。

独「くそっ……。気持ち悪い動きばっかりしやがって!!」

歯を食いしばって立ち上がり腕を振り上げる。しかし、指一本で痣を突く。それだけで痛みに姿勢が崩れ拳は空を切って倒れ込んだ。

妙見「さて、次は……」

京「……」

妙見「臥劉くん、お待たせしました……ん?」

独「待て……よっ!」

倒れたまま手を伸ばして妙見の足を掴む独。

妙見「少々……しつこいですね。」

独「当たり前だ……こんな痛み。久良三さんのしごきに比べたら……なんともないっ!」

妙見「なら仕方ありませんね。慈愛から修羅へと移りましょう」

妙見は手を高らかに揚げた。その手の形は人差し指と親指のつま先をくっつけて輪をつくり、中指、薬指、小指はぴたりとくっつけている。OKサイン……いや、仏の手の形とでもいえばいいのだろうか。

独「くっ…!」

まるで刃の如く独の首筋目掛け垂直に振り下ろされた!

京「臥劉螺拳!!」

小型の竜巻のような固まりが妙見の掌を弾き飛ばした。

妙見「おっ……と。」

京「黙って見ているつもりだったけど……やめだっ!いくら先生だからって己の友達に手だしするのは許さない!」

独「が、がりゅー……」

自分の頭上で睨みあう京と妙見。べたべたのインファイト状態で先に口を開いたのは妙見だった。

妙見「かなりの……威力ですね。しかし、女性にこれを使うのは少々気がひけますね」

弾き崩された手の形を例の掌に組み替える。

京「無駄だ。己には効かない。」

妙見「ほう……それはどうでしょうね!!」

打撃が京を襲う。しかし……当たらない。

京「……」

妙見「むっ……ほうほう、これはこれは……ふむ。」

今度は両手で連続して掌打を繰り出す。右へ左へと打ちだすが京にはかすりもしない。

京「その技がどういうものなのかは分からないけど……そんなスピードじゃ己には当たらない!!臥劉螺っ……!」

妙見「油断大敵です」

ドスッ……今までとは明らかに速度の違う一撃が京の胸を貫いた。それも前に出ようとしていた動きに合わせて出したため自分から突き刺されに行った形だ。

京「うっ……」

咄嗟に後ろに飛び下がるがりゅー。胸元にジワリとシミが広がる。シャツの生地が黒だから分かりにくいが、それは血液。

妙見「慈愛の掌はその身に戒めの跡を残し、修羅の掌は罪を刻む。どうです……まだ、悔い改める気はありませんか?」

京「ないっ!己は間違ってないからだ!己は悠が好きだ!大好きだーー!」

妙見「やれやれ……。では、私も本気で行きますよ。」

京「こいっ!お前は己が倒す!」
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