ー新伝ー伝説を継ぐもの【3】

ー亜細亜通り:廃ビル内部ー

「ぐぶっぅっ?!」

血弾は腹部を穿つ。一歩後づ去る紙袋の男はされでも食い下がろうとしていた。弩躬は更に血弾を連射した。弾数はほぼ無尽蔵、雨粒を垂直に浴びるよう奴は避けも防ぎもせずに前進を続けようとする。弩躬の血か、自身の出血か分からぬほど血染められていく男はついに膝をついた。

弩躬の腕と肩も無理な体勢で血の弾を撃つのは限界だった。それでも、最後の最後の一発。極限の一撃を眉間めがけて発射した。強烈な平手でもぶつけたような音とともに紙袋の上半分が粉々に弾け……土下座でもするようにうなだれる。

「っ……。勝った」

「……まだ…だっ!」

気を失ったと思った紙袋の男は地面に左手を叩きつけて右に持つ大太刀を弩躬へと突き付けた。切っ先の狙いは喉、体重を乗せたその突きを手では受け止めれない。仮に腕でガードしたとしてもまとめて串刺しにされる。そもそも、右腕は今使いすぎて麻痺して動かすのも困難。身体をひねっても間に合わない。

咄嗟に左手に触れたものを掴んで下段から弾きあげた。ギンッと鉄同士がぶつかる音……間一髪、小太刀で致命傷は免れたものの下顎から唇の端を削ぎ、頬の一部も切り裂かれた。

助かったのもつかの間もはや顔の部分を辛うじて隠す紙袋の男はいつの間にか立ち上がって大ぶりに太刀を構えていた。

「……あ、やべっ」

「貴殿は強かった。さらばだ」

刃が落ちる……が、額に触れる寸前に大太刀は急停止した。

「……殺しはせんよ。君はヤクザものでは無いようだしな。だが、この刀は返すつもりはない。さらばだ」

大太刀を鞘へ納め、小太刀も拾うと紙袋の男は弩躬を無視して歩きだした。

「おい……待てよ」

「まだ何かあるのかな?」

「名前、名乗ってけよ」

「名か……ジュリエッタだ」

「ブチ殺すぞおっさん」

「はっはっは、それは恐ろしい。ではサラバただ少年よ。」

妙に通る声で笑いながら奴の気配が消えた。恐らく追いかけてももう無理だろう。

「あー……くそっ、めちゃくちゃ強いなあのおっさん。痛っっ……あー、ダリィ。こんなことなら本式のゴム装備してくるんだった……。」

ブッブッと文句を言いながらポケットから携帯を取り出してまだ、痺れが取れず震える指で操作して耳に当てる。ワンコールでつながった。どこか艶っぽくなまめかしい声が耳をくすぐる。

『はぁい?弩躬、どうしたの?』

「あ、はぁ、センセ……すいません。トチり……ました。」

『だから、無茶しないようにいったのに。』

「面目ない……です。」

『いいわ。それで、どうなの動けないの?』

「ちょっと、キツイです。足やられちゃいましてね……。」

『わかったわ。迎えを寄越すから死なない程度に休んでなさい。』

「すいません。そうします……。」

電話を切って、目を閉じた。鉛でも背負ったように体が重い。血を流し過ぎたせいかもしれない……。足、長いだろうなぁ……顔の傷ちゃんと治るかな…………なんて考えてると、いつの間にか意識を手放してしまった。

「おい……おーい、生きてるか」

ぺちぺちと頬を叩かれる感触に目を開けた。

「ぅっ……なんだ。誰だよ」

「誰だよっておれだよ。おれ、分かるか?」

うっとうしい程に長い長い髪、軍パン、和柄のシャツ……悠か。

「……前髪お化け」

奴はケタケタと薄気味悪い笑い声をあげて、しゃがみこんだ。

「減らず口が聞けるなら大丈夫そうだな。ほら、肩貸してやるから立て」

「くっ……はぁ、なんでお前が?」

「鳳さんからいきなり電話かかって来て「今ヒマ?ヒマじゃなかったら死人が出るわ」って脅されたんだよ」

「はは……まさか、悠を寄越すとは……な。お前さちゃんと鍛錬してるか?」

「あー?なんだ急に」

「いや……まだまだ強い奴がゴロゴロしてるからさ。ちゃんとしてないとお前もこんな目に遭うぜ」

「……お前は油断してるからな」

「なに?」

「強化ゴム。本式のをつけて来なかったんだろ。だから、痛い目見るんだよ。お前がちゃんとしてたら負けてなかったろうよ。ま、油断してたから勝てたおれがいうセリフじゃないけどな。」

「……はっ、お前さ。男にはモテるだろ」

「うるせぇ黙れ穴あき。……っかこれ、タクシー乗れんぜ。どうやって病院まで行くかなぁ。」
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