ー新伝ー伝説を継ぐもの【3】
ー亜細亜通り:廃ビル内部ー
「それで……私なにか御用ですかな?」
和羽織と紺色の袴、ぐぐもった声は四十代後半ぐらいだろう。ここまでならまだ分かる。しかし、頭に被っている紙袋……穴らしいものは開いていないのにどうやって前を見ているのか分からない。だが、奴はしっかりと弩躬との方を見ていた。
相当の手慣れかあるいは馬鹿か……弩躬とは三歩分間合いをとって聞いた。
「「飛英」と「雄断」」
「……」
「持ってるんだろ。返してくれ」
「……君のものなのか?」
「いいや、俺の知り合いのモンだ。探してくれと言われて手伝っててアンタにたどり着いた」
「それは、なかなかの名探偵だな」
「そんなわけ無いだろ。アンタ目立ち過ぎなんだよ。その紙袋姿もヤクザを追い払ったやり口も……それに知ってんだろ自分に懸賞金がかかってるのも」
紙袋の男は背負っている袋から刀を二振り取り出した。過剰な装飾もない造りで黒鞘なのに柄の握り紐は朱色。シンプルながら、ひと目に迫力がひしひしと伝わってくる。
腰に携えると紙袋の男は言った。
「この刀は既に私のものだ。購入された方には悪いが……返すわけにはいかない。」
「素直に返してもらえるとは思ってなかったが……力づくで取り返すと…っ?!」
ひと踏みで間合いを詰められ、抜き身の銀刃が振り上がる。右腕を胸の前に添えて弩躬は後ろに飛んだ。避けのけ反った訳でなく、切り押される形で距離が開いた。
しかし、弩躬からは血の一滴も零れず紙袋の男を中心に時計回りに動き続ける。斬られた袖からのぞく腕に巻かれている黒い帯状のものは戦車のキャタピラにも運用される強化ゴムは弓であり鎧、打撃はおろか斬撃すらも通さない強度を誇っている。故に例え刃物といえど傷つくはずは無かった……だが、通った。刃を受け止めた側も、振るった側も手応えを感じ取った。
弩躬は理解するあの男はこの鎧ごと切り落とす実力があると…。そして、男も理解した武装の正体は不明でも甘い握りでは刃が通らないと…。
奴は抜き身の大太刀を鞘に戻して、常に正面に弩躬を対峙するように足を運んだ。居合の型。後の先を得意として刹那に放たれる刃となれば今度は確実に肉を断たれる。しかし……弩躬にとって待ちの相手は恐ろしくは無い、恰好の的だ。
「シッィィィィッ……!!」
右腕を大きくひと振りして大きく伸ばし、左手で極限までゴムを引きつつダートを装填し、撃ち放った。その一連の流れは一秒にも満たなく、気がついたときにはボヒッュッと風を切りながらダートは垂直に紙袋のど真ん中を捉えて至る。
「ムンッ!」
ドッドッと破壊音がふたつ……ダートは真下から真上へと抜かれた刃に一刀両断されてしまった。
「(早ぇ……撃つ「まで」は見えてなくとも、撃った「後」は捉えてるのか。そして、真正面から見ている俺が太刀筋を見えてない。射線を外さなかったのは身体は早くないが、手の速さは射速に合わせれるから……。間合いに入ってアレで抜かれたら手足は吹っ飛んじゃうなぁ……さて、どう仕留めるか)」
ダートは残り九本……渋って済む相手でもないと、三本ほど抜いて縦に速撃ちする。一度に放たれたダートは徐々に角度を空けていき顔、胴体、下半身に向かっていくも……ドッドッ!ドッドッ!ドッドッ!っと三本を六本に切り裂いてしまった。同時複射でも奴はあせらずに対応している。
「(同時複射はダメか。なら、これはどうかなっ!)」
左手の指の間に挟んだダートは四本。一発一発のタイミングを僅かにずらして連射する。最初の二発は胴体目掛けての正面から、後の二本は天井と壁に向かって放たれて跳弾して上下段から挟み撃ちする。
「刃ァァァッイ!!」
大太刀のひと振りで初弾二発を払い切り、跳弾は小太刀を二度振って叩き落としてしまった。
「ふぅぅっ…む?隠れましたか。」
弩躬は柱の陰に隠れて次弾を準備しつつ敵を見ていた。二刀流。驚くのはそこではなく奴の剣裁き……小太刀はともかく大太刀、決して広くは無いスペースで奴は巧みに大太刀を振りまわしている。しかも……あの紙袋を被ったままでだ。ああなると更に間合いは詰められない。
センセがいっていた通り……ただ者で無いのは良く分かった。こんなことなら本式のゴムを装備してくるべきだったと歯噛みする。
弩躬は小さく首を振って左腕に巻いていたゴムを解いて、右手に重ねがけして引いた。ギ、ギギギチッと後背筋が呻く。重ねて引けば単純に二倍を出せる。威力も射速も全て二倍。ただし、連射が効かずに、一発の振動も大きくなる。
「それで……私なにか御用ですかな?」
和羽織と紺色の袴、ぐぐもった声は四十代後半ぐらいだろう。ここまでならまだ分かる。しかし、頭に被っている紙袋……穴らしいものは開いていないのにどうやって前を見ているのか分からない。だが、奴はしっかりと弩躬との方を見ていた。
相当の手慣れかあるいは馬鹿か……弩躬とは三歩分間合いをとって聞いた。
「「飛英」と「雄断」」
「……」
「持ってるんだろ。返してくれ」
「……君のものなのか?」
「いいや、俺の知り合いのモンだ。探してくれと言われて手伝っててアンタにたどり着いた」
「それは、なかなかの名探偵だな」
「そんなわけ無いだろ。アンタ目立ち過ぎなんだよ。その紙袋姿もヤクザを追い払ったやり口も……それに知ってんだろ自分に懸賞金がかかってるのも」
紙袋の男は背負っている袋から刀を二振り取り出した。過剰な装飾もない造りで黒鞘なのに柄の握り紐は朱色。シンプルながら、ひと目に迫力がひしひしと伝わってくる。
腰に携えると紙袋の男は言った。
「この刀は既に私のものだ。購入された方には悪いが……返すわけにはいかない。」
「素直に返してもらえるとは思ってなかったが……力づくで取り返すと…っ?!」
ひと踏みで間合いを詰められ、抜き身の銀刃が振り上がる。右腕を胸の前に添えて弩躬は後ろに飛んだ。避けのけ反った訳でなく、切り押される形で距離が開いた。
しかし、弩躬からは血の一滴も零れず紙袋の男を中心に時計回りに動き続ける。斬られた袖からのぞく腕に巻かれている黒い帯状のものは戦車のキャタピラにも運用される強化ゴムは弓であり鎧、打撃はおろか斬撃すらも通さない強度を誇っている。故に例え刃物といえど傷つくはずは無かった……だが、通った。刃を受け止めた側も、振るった側も手応えを感じ取った。
弩躬は理解するあの男はこの鎧ごと切り落とす実力があると…。そして、男も理解した武装の正体は不明でも甘い握りでは刃が通らないと…。
奴は抜き身の大太刀を鞘に戻して、常に正面に弩躬を対峙するように足を運んだ。居合の型。後の先を得意として刹那に放たれる刃となれば今度は確実に肉を断たれる。しかし……弩躬にとって待ちの相手は恐ろしくは無い、恰好の的だ。
「シッィィィィッ……!!」
右腕を大きくひと振りして大きく伸ばし、左手で極限までゴムを引きつつダートを装填し、撃ち放った。その一連の流れは一秒にも満たなく、気がついたときにはボヒッュッと風を切りながらダートは垂直に紙袋のど真ん中を捉えて至る。
「ムンッ!」
ドッドッと破壊音がふたつ……ダートは真下から真上へと抜かれた刃に一刀両断されてしまった。
「(早ぇ……撃つ「まで」は見えてなくとも、撃った「後」は捉えてるのか。そして、真正面から見ている俺が太刀筋を見えてない。射線を外さなかったのは身体は早くないが、手の速さは射速に合わせれるから……。間合いに入ってアレで抜かれたら手足は吹っ飛んじゃうなぁ……さて、どう仕留めるか)」
ダートは残り九本……渋って済む相手でもないと、三本ほど抜いて縦に速撃ちする。一度に放たれたダートは徐々に角度を空けていき顔、胴体、下半身に向かっていくも……ドッドッ!ドッドッ!ドッドッ!っと三本を六本に切り裂いてしまった。同時複射でも奴はあせらずに対応している。
「(同時複射はダメか。なら、これはどうかなっ!)」
左手の指の間に挟んだダートは四本。一発一発のタイミングを僅かにずらして連射する。最初の二発は胴体目掛けての正面から、後の二本は天井と壁に向かって放たれて跳弾して上下段から挟み撃ちする。
「刃ァァァッイ!!」
大太刀のひと振りで初弾二発を払い切り、跳弾は小太刀を二度振って叩き落としてしまった。
「ふぅぅっ…む?隠れましたか。」
弩躬は柱の陰に隠れて次弾を準備しつつ敵を見ていた。二刀流。驚くのはそこではなく奴の剣裁き……小太刀はともかく大太刀、決して広くは無いスペースで奴は巧みに大太刀を振りまわしている。しかも……あの紙袋を被ったままでだ。ああなると更に間合いは詰められない。
センセがいっていた通り……ただ者で無いのは良く分かった。こんなことなら本式のゴムを装備してくるべきだったと歯噛みする。
弩躬は小さく首を振って左腕に巻いていたゴムを解いて、右手に重ねがけして引いた。ギ、ギギギチッと後背筋が呻く。重ねて引けば単純に二倍を出せる。威力も射速も全て二倍。ただし、連射が効かずに、一発の振動も大きくなる。