ー新伝ー伝説を継ぐもの【3】

ー銀座千疋屋ー

梔「はあぁ……美味しどすなぁ。新鮮なフルーツジュース。」

神姫「すいません、ごちそうしていただいて。」

梔「ややわぁ。今日は着きおうてもらたんやからジュースくらい気にしせんといて」

神姫「はぁ……アイスとパフェにケーキ、カットフルーツまで並んでいますけどね」

梔「あら、甘味苦手どしたか?」

神姫「いえ、そうではなくて……あまりこういうことをいうのはなんですけど、結構なお値段じゃないですか。道案内しただけで、これをごちそうになるのはちょっと……」

神姫「つまらんこといわんでええの。もう注文してしもたんやから残さず食べてもらえんのが一番失礼やえ?」

神姫「……わかりました。いただきます。」

梔「はい、そないしてください。はぁ……メロンジュースってこんな濃厚なんあるんやねぇ」

神姫「お酒とかじゃなくて良かったんですか?」

梔「ウチもたまには女の子同士でこーいうお店でスィーツしてみたかったんよ。」

神姫「はぁ、なるほど」

梔「ほら、ウチの周りは男所帯だったり。お弟子さんもやっぱり男の子が多いどしてなぁ。なんやかんやで気軽にお友達として話せる女の子って居(い)いしませんでしたんよ。」

神姫「梔さんはその界隈では著名人ですからね。話すのも惧れ多く感じている人もいるのでしょう」

梔「そんなことないんどすけどなぁ……。ウチももっとホンマは街に遊び行ったり、おしゃれして旅行したり気軽ぅにお喋りしたいんどすけど」

神姫「……」

梔「あっ、愚痴ってしもて堪忍な」

神姫「いえ、平気です。私に梔さんの苦労は分かりませんが……話を聞くのは苦ではありませんから。むしろ愚痴を聞くのは慣れてますし」

梔「あらぁ、やっぱり神姫ちゃんは頼られる人なん?しっかりしとるし」

神姫「どうでしょうか私は友人は少ない方なので」

梔「お友達は数やありまへんどすえ。きっと、神姫ちゃんのお友達は絆が深いんよ」

神姫「そうで……しょうか?ときどきもの凄くめんどくさくて下劣でうっとうしいですよ。まぁ、タフなのは認めますけど。」

梔「ふふっ」

神姫「どうかしましたか?」

梔「今のん悠ちゃんのことやろ」

神姫「……」

梔「ええんどすへ。ウチかてホンマは普段悠ちゃんがどんな子かわかっとるんどす」

神姫「そうでしたか。まぁ、悠が素を隠して猫かぶり続けている方が難しいでしょうけど」

梔「あの子は遠慮しぃやしね。」

神姫「どこがです?図々しくて図太く生きてますよ?それはもう無神経なほどに」

梔「そうやっておどけて自分をずーっとおふざけ者で通しとるんよ。そうやって自分も他人も騙し続けとるんよ…。」

神姫「いや、間違いなくアレは素です。安心してください。いや、むしろ考えなおしてくて改めて認識してください。悠は天然純粋の超弩級のピエロです。調子ノリの天の邪鬼なだけですから。」

梔「……」

神姫「あっ……す、すいません。」

梔「くすくす、あは、あはは。ええわぁ、そこまではっきり悠ちゃんのこと分かってるんどすなぁ。」

神姫「いえ、そういうのでは……」

梔「そういえば神姫ちゃんは悠ちゃんとお見合いもしたんどしたな。」

神姫「ただの食事会ですよ」

梔「神姫ちゃんから見て悠ちゃんはどう?」

神姫「普通ですね。好きでも嫌いでもないです」

梔「普通言うんは大事なことやね。」

神姫「あの……さりげなく私と悠の仲を取り持とうとかしてますか?」

梔「んーふっふっ、ちょっとだけ思ったどすなぁ。けど、ホンマにちょーっとだけどすへ?婚約とか着き合うとかは当人同士が決めることやから……ウチからはなんもいいしまへん。」

神姫「ホッとしました。」

梔「けど……やっぱり恋ばなとかは聞きたいなーおもっとりますへ。」

神姫「それは……悠とでもしてください。」

梔「悠ちゃんの本命は知ってはりますしなぁ」

神姫「そうですか。…………今なんて?」

梔「はい?」

神姫「悠に本当に好きな人が居て、その本命も知ってるんですか?」

梔「ええ、知っとりますえ」
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