ー新伝ー伝説を継ぐもの【2】
ー蒼天塔:武闘場ー
違反騒ぎから一時間、ようやく黒服の男に呼ばれて崇は八角形リングに立った。アナウンサーのハイテンションは更にガソリンを足したように爆発的に叫ぶ。
『さぁさぁさぁさぁさああぁぁぁ!!!色々あったがあぁーー!!皆さんの固~い口と巧妙な粉飾決算に支えられたこの試合を今度こそ完結させるぜっ!!なんたって、なぜか順序を吹っ飛ばして地上最強のォ……っと、失礼!蒼天最強の男を決定する!!もちろんルールは無用のデスマッチ。まずは既にリングインしているこの男!!弱冠二十歳にして名の知らぬものは居ない、むしろそんな奴はモグリのぉぉぉ虎狗琥崇、身長190㎝、80㎏ォーー!!』
天性の役者(パフォーマー)は最高のタイミングで腕を高らかに突きあげた。待ちに待たされていた観客たちも声を張り上げる。
『国籍・日本!!使用武術・無し!だが、それでも未だ負け知らず!!腕一つで街のガキを束ね、誰もが憧れる不敗神話と伝説を次々と……』
べらべらと喋りつづけるアナウンサーに観客は盛り上がるも、崇は既に「飽き」が出始めていた。
「いちいち説明する必要があるのか…?」
ひとりごとが聞こえたのか、今までは居なかった相手方の「セコンド」がいった。スキンヘッドでサングラス、首にタオルのおっさん。
「まあまあ……これがあるから盛り上がるんだって」
「ふんっ、悪趣味なことだ」
『だが、相手は手ごわいぞ!!なんたって対戦相手も無敗の王者!!』
鉄柵が飛び出して鋼鉄の鳥かごが完成し、逃げ場を遮断した。対戦相手が紹介とともにノソノソとあがってくる。一切表情を崩さなかったKINGも目を丸めた。
「……は?」
『グラン・ヴゥライアンくん。14歳ーーーーっ!!251㎝342㎏ぅーーーっ!!国籍・アメリカ!!種族・熊!!使用武術・特になし!天性のファイターだぁ!!本来雑食のグランくん。今回も餌付けが大変でしたぁー!!』
檻の外から「セコンド」ではなく「調教師」がいった。
「例えばパンダなんかは本当は肉食なんだが……天然の餌付けによって笹しか喰わなくなるらしい……」
『ちなみにこのグラン君、もう長いこと人間の肉しか与えられていません!!それではぁぁぁぁファイトっ!!』
ゴーンッと鐘が鳴り、グランという熊は咆哮した。それを見て調教師は笑う。
「いったろ?無差別級だって」
崇はいった。
「なるほど、最初から勝たせる気はなかったんだな」
よそ見をしている崇の顔のすぐ側、真っ黒い凶爪が襲った。常人ならば首から上が飛んでいただろう。タカシは膝を折って、その強撃を避けた。爪先にかすったらしくパラパラと銀髪が空を舞う。振り抜かれた腕を見計らって、ふくらはぎのバネを利用し、勢いづけて熊の腹を殴った。ドムッとぶ厚いゴムを叩いたような音がすするも動物特有の固まった脂肪と硬い筋肉の前にダメージは皆無だった。熊は再び凶爪を振るう。当たれば死。タカシは上へと避難した。一時間前、窈と闘った男と同じように鉄柵を掴んで高みで様子を見る。
ヒートアップし続ける会場内で、拳二は立ちあがって叫んでいた。
「くそがっ!!狂ってやがるぜ!!」
側で見ていた氷室がいう。
「しかし、始まってしまってはもうどうしようも有りません。」
「冷静になにいってやがる!」
「落ち着いてください。私たちがここで争っても意味がありませんよ」
苦虫をかみつぶした顔で拳二は荒々しく座った。同時に拳を隣の席に叩きつけたせいでベコリと音を立てて質素な作りのスツールは、ひとが座れなくなる形に変形していた。
違反騒ぎから一時間、ようやく黒服の男に呼ばれて崇は八角形リングに立った。アナウンサーのハイテンションは更にガソリンを足したように爆発的に叫ぶ。
『さぁさぁさぁさぁさああぁぁぁ!!!色々あったがあぁーー!!皆さんの固~い口と巧妙な粉飾決算に支えられたこの試合を今度こそ完結させるぜっ!!なんたって、なぜか順序を吹っ飛ばして地上最強のォ……っと、失礼!蒼天最強の男を決定する!!もちろんルールは無用のデスマッチ。まずは既にリングインしているこの男!!弱冠二十歳にして名の知らぬものは居ない、むしろそんな奴はモグリのぉぉぉ虎狗琥崇、身長190㎝、80㎏ォーー!!』
天性の役者(パフォーマー)は最高のタイミングで腕を高らかに突きあげた。待ちに待たされていた観客たちも声を張り上げる。
『国籍・日本!!使用武術・無し!だが、それでも未だ負け知らず!!腕一つで街のガキを束ね、誰もが憧れる不敗神話と伝説を次々と……』
べらべらと喋りつづけるアナウンサーに観客は盛り上がるも、崇は既に「飽き」が出始めていた。
「いちいち説明する必要があるのか…?」
ひとりごとが聞こえたのか、今までは居なかった相手方の「セコンド」がいった。スキンヘッドでサングラス、首にタオルのおっさん。
「まあまあ……これがあるから盛り上がるんだって」
「ふんっ、悪趣味なことだ」
『だが、相手は手ごわいぞ!!なんたって対戦相手も無敗の王者!!』
鉄柵が飛び出して鋼鉄の鳥かごが完成し、逃げ場を遮断した。対戦相手が紹介とともにノソノソとあがってくる。一切表情を崩さなかったKINGも目を丸めた。
「……は?」
『グラン・ヴゥライアンくん。14歳ーーーーっ!!251㎝342㎏ぅーーーっ!!国籍・アメリカ!!種族・熊!!使用武術・特になし!天性のファイターだぁ!!本来雑食のグランくん。今回も餌付けが大変でしたぁー!!』
檻の外から「セコンド」ではなく「調教師」がいった。
「例えばパンダなんかは本当は肉食なんだが……天然の餌付けによって笹しか喰わなくなるらしい……」
『ちなみにこのグラン君、もう長いこと人間の肉しか与えられていません!!それではぁぁぁぁファイトっ!!』
ゴーンッと鐘が鳴り、グランという熊は咆哮した。それを見て調教師は笑う。
「いったろ?無差別級だって」
崇はいった。
「なるほど、最初から勝たせる気はなかったんだな」
よそ見をしている崇の顔のすぐ側、真っ黒い凶爪が襲った。常人ならば首から上が飛んでいただろう。タカシは膝を折って、その強撃を避けた。爪先にかすったらしくパラパラと銀髪が空を舞う。振り抜かれた腕を見計らって、ふくらはぎのバネを利用し、勢いづけて熊の腹を殴った。ドムッとぶ厚いゴムを叩いたような音がすするも動物特有の固まった脂肪と硬い筋肉の前にダメージは皆無だった。熊は再び凶爪を振るう。当たれば死。タカシは上へと避難した。一時間前、窈と闘った男と同じように鉄柵を掴んで高みで様子を見る。
ヒートアップし続ける会場内で、拳二は立ちあがって叫んでいた。
「くそがっ!!狂ってやがるぜ!!」
側で見ていた氷室がいう。
「しかし、始まってしまってはもうどうしようも有りません。」
「冷静になにいってやがる!」
「落ち着いてください。私たちがここで争っても意味がありませんよ」
苦虫をかみつぶした顔で拳二は荒々しく座った。同時に拳を隣の席に叩きつけたせいでベコリと音を立てて質素な作りのスツールは、ひとが座れなくなる形に変形していた。