ー新伝ー伝説を継ぐもの【2】

ー長江事務所・裏口ー

匠は今一度、麒麟児を引っ張っろうとするが、二度目の落下音に足がすくんだ。油の切れたブリキ人形のように首を振ると、ダストボックスの中から、王がでてくる。

「うげー、変なとこに落ちちゃったよ。よいしょっと」

怪我した様子は何処にもないが、身につけている服が幾重にも切り裂かれていた。さっきの合間に何があったのか……。王は服についたゴミを払い落として手を振った。

「また会ったね。足はとりあえずあげちゃったよん」

「我が身から離れたものに未練など無い」

「かっこいにゃあ。じゃ、他の部分ももらっちゃおうかにゃ~」

ふざけた口調で王は銃を抜いた。銃口は砕のひたい向けられる。

「もう当たらん」

「かもね。俺もともとへたくそだし。確実に当たりますって的しか当てたこと無いし。」

一瞬、目を離しては居なかったが王の前から砕の姿が消えて、次に現れたのはちょうど真後ろだった。半円を描くナイフの穂先が首をかっ切ろうとする。

「おっと」

王は正面を向いたまま身をかがめて一閃を見事に避けた。空を切るナイフの軌道はそのまま下段する。見向きもせず避けた方も避けた方で超人だが、急軌道転化して追尾するほうもするほうで達人だった。しゃがんだ超人は地面に片手をついて前に転げて突き刺し攻撃をまたも避ける。達人はそれでもなお追撃を実行した。振り下ろした腕とは逆の手を伸ばして王の足首を掴んだ。タオルでも振るように壁へと向かって叩きつけたのだ。

「らあぁぁっ!!」

叫び声をあげて掴んだ手を離すと裏口の扉ごと王は建物の中へと飛んで行ってしまった。常人ならヘタをすれば死んでいるだろう。だが……相手は超人だ。投げ込まれた室内で仰向けに倒れたまま腕を組んでいった。

「んー……さてはドーピングしちゃってるなぁ。どうしょっかなん」

何ごともないように立ちあがって、王は自分の持っている銃を見た。銃口がひん曲がり使い物にならない。……っが、その壊れた銃から王は弾を全部左手の中に移し出す。自分が投げ込まれた扉だった場所から片足飛びで砕が追ってきた。

「お、来たね。」

「今度はその首……断つ。」

片足ゆえか、自発的になのか砕はユラユラと揺れている。それを真似て王も同じように左右に揺れた。そして、不意に左拳を自分の前に持ってた来て、弾をはじきあげた。キィーンと独特の金属音がして蛍光灯のあかりを受けて銃弾は鈍く光った。次の瞬間、発砲音とともに弾丸が走った。

「?!」

こめかみの側の肉を削ぎ皮膚を破き皮一枚で砕は銃弾を避けて転がり壁に身を潜める。

「んー……びりびりきた。」

王は右手をフルフルと振っている。何をしたのか……それは銃弾を発射したのだ。では……どうやって?銃の原理は単純にいえば撃鉄で弾の後ろを叩く事により火薬を破裂させて、その衝撃で弾を撃ちだすのだ。なのでハンマーや硬い物で叩きつければ当然暴発する……。そう……硬い物で叩く。王は拳という撃鉄で弾を叩き発射したのだ。生まれながらにして鉄の身体を持ちし王狐文にのみ可能で、王狐文にのみ許されし凶行。

当然、本人は前からこのようなことが出来るとは思っていなかったし、今日が終わるころには出来たことすら忘れ去られるかも知られい程度の遊戯。彼にとっては「今が楽しい」が大事で「楽しかった」や「達成した」という感情が欠落……いや、存在してないといっても過言ではない。そのため、今の彼はきっとこう考えている「飽きて帰る」から「面白い玩具が見つかった」そして「避けてくれたもっともっと遊びたい」。王(わん)とは王(おう)とも読む。KINGは時に殺戮者、時に英雄、時に導く者として歴史上色々な王が居たが……彼はいつでも「遊戯者」だ。自分の楽しいことを、自分の好きなことを、自分の欲望で自由に世界を闊歩する。

「隠れちゃったか~。でも、次はどこから現れるなっん。」

孤独で陽気で無邪気でとてもとても残酷な狂王……の声に他人からタグ付き、化け物などと呼ばれているはずの自分が追い込まれている事に砕は笑いが込みあげた。

「く、くく……人間未満の俺(エデン種)より人外の輩がいるとはなっ。くくっ……。」
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