ー新伝ー伝説を継ぐもの【2】

ー長江組事務所・社長室ー

躊躇なしに王は窓枠を押し壊し、身を乗り出して下を覗きこむ。しかし、砕の姿は既に無くなっていた。

「むー……やっぱりニンジャか」

「そんなに下が気になるなら逝ってこいよ」

声は上から聴こえた。王は見上げようとしたが、後頭部に足が落ちてきてそれを阻止される。窓から飛び出して、下に逃げたのではなく隣接するビルの壁を蹴り窓の上へと飛び移った砕は覗きこむ王の後頭部を踏み潰したのだった。そして、手を離し全体重を掛けて首をへし折るつもりだった……っが、足首を掴まれて振り回された。視界が180度動き自分が宙づりになってどうなったかに気がつく。大人ひとり分の衝撃を受けたその男の首は折れることは無かった。支え切って自分の元へ帰ってきた獲物の足を捕えて、眼前へと連れ込んだのだ。凶人は笑う。笑顔を見せていう。

「今のはちょっと面白かった。さぁ、どうしようか……?」

大人ひとりを片手で掴み逆さづりにするこの男の腕力は底知れない。そして片手に握られているのは銃。生命与奪の権利を完全に掌握しているのだ。王はいった。

「エデン種って買い手が多いんだよねぇ。ここで殺さず拉致って後で処理しようか……。でも、やっぱり殺す」

間を与えずにトリガーを引いた。発射される凶弾、身をよじって一発は避けた。握っている手に圧が加わり砕は強制的に元の逆さづりになる。

「本当にとんでもない身体能力だね。羨ましいなぁ俺そーゆーの出来ないんだよね。」

崩れない笑顔、殺意も怒りも感じさせない穏やかな口調のまま王はトリガーを引いた。







ドンッ!扉を蹴破り氷室と炎銃は逃げた長江を追っていた。無茶苦茶な作りの雑居ビル内は社長室が終点どころでなく奥へ奥へと部屋が続いている。炎銃は吐き捨てるように言った。

「あっちは無視していいのかよ」

「私はヤクザやマフィヤの傭兵の争いに巻き込まれる筋合いは無いです。ですので、ヤバい人らはヤバい人らとじゃれ合っててもらいましょう。長江の身柄さえ確保してしまえば、あとは警察に突きだすだけでお終いなんですから。」

「だと良いけどな……。」

三枚目のドアを蹴破ると薄暗く段ボール箱が無造作に山積みになった部屋の隅で四つん這いになる長江を見つけた。氷室はいった。

「長江さん、このままではアナタは確実に殺されます。私と一緒に来れば死にはしませんよ。警察にはいってもらいますけどね。」

返事は無い。荒い息遣いと何かをがりがり…がりがり…っと噛み砕く音だけが聞こえる。炎銃と氷室は顔を見合わせた。相槌を交わして炎銃は長江の太ももへ発砲した。本物ではないにしろ違法改造を施した弾丸は易々と肉を貫通する。だが、悲鳴もあげなければのたうつ事もない。ゾンビのようにヨタヨタと立ちあがった。

「おい……言いたくはねぇがヤバく無いか?」

「祭さん、もう何発か……というより、動けなくなる程度に足を撃ってもらえますか」

返事はワンカートリッジ分の弾丸だった。太ももからふくらはぎにかけて乱射する。一発の外れも無くすべて命中した。薄暗くて見えにくい室内だがやつの足元に血の水たまりが広がる。それでも倒れはしない。ヤツはゆっくりと二人方へ向きかえった。氷室と炎銃は一歩後ずさる。

「こぉれが……ライフの力かはぁはぁ…すげぇ痛くねぇしっぅぶ……めちゃくちゃハイになんぜぇっ」

ボロボロと口からこぼれ落ちたのは錠剤やカプセルの破片……。長江はラムネ菓子でも食べるように異常量の薬を噛み砕き喉へ落としこんでいた。ゆっくり、ゆっくりと二人は距離をあける。氷室がいった。

「祭さん、ライフというお薬に心当たりは?」

「ねぇよ。ただ……緑蛇やクサみたいな薬じゃなく。モルヒネみたいに神経系で覚せい剤みたいにヤベェのみたいだな…」

「ちなみに、残り弾数は?」

「十五発マガジンがひとつと今この中に入ってるだけだ……。」

長江は壁に埋め込まれている鉄材を掴んだメギメギと音を立ててそれを引きちぎる。

「私今バイオハザードのゲームを思い出しました。」

「ゾンビじゃねぇが……怪物には違いねぇなっ!!」
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