ー新伝ー伝説を継ぐもの【2】

ー長江組事務所・社長室ー

長江「へっへへ……砕やっちまえ!」

砕「俺に命令するな……お前に死なれると困る、奥に引っ込んでろ」

主従関係があるようでは無いらしく、砕は長江にナイフの穂先を突き付けて命令する。

長江「なっ……」

砕「聞こえなかったか?ウスノロ」

長江「ち、畜生!畜生このチャイニーズが!」

精一杯の罵声を吐いて長江は奥へと逃げ込んだ。砕は扉の前に立ち両の手のナイフを煌めかす。

漆原「動くなチャイニーズ。今度は撃つぞ。今すぐ武器を捨て……」

砕「遅い。」

それは「遅い」とか「速い」という次元では無かった。骨の折れる音で漆原は何が起こったのか気づいた。手首を蹴られ弾き飛ぶ銃、そして漆原の右肩に深々と突き刺さるナイフ。

漆原「ヴグッ?!」

瑠璃「あ、それ腱逝ってる、手首も折れてるし、全治四週間。」

漆原「こんな時にっ……冷静に診るな」

突き立つ凶器を無表情に引き抜く砕、その鋭利は次の獲物へと穂先を向ける。未だ漆原の腕の中にいる小柄な女、瑠璃だ。

瑠璃「あ、やべ、やられる。」

何処までも冷静な瑠璃の胸ぐらを引っ掴み漆原は壁へと押し付けた。がむしゃらだったのか頭が壁にぶつかりゴンッと鈍い音がした。そして流血しつづける右肩を抑えつつ瑠璃に覆いかぶさった。

砕「盾のつもりか…?馬鹿が」

漆原「馬鹿はお前だっ。死ね」

王「ウルたん、カッコイイ。当たったらごめんね」

砕「!?」

漆原が背を向けたのは砕のナイフからでは無い、その後ろにいるものからだった。王はいつの間にか銃を拾って構えていた。そして喋りながら普通に引き金をひく。サイレンサーによる独特の発射音が四つ。壁に二つ、漆原の脇腹に一つの穴を開けた。もう一発の弾丸は砕を捕えたものの偶然か必然かナイフで受けた。ギィィィンと金属がはじける音がして折れた刃が落下する。

王「わーぉ、やっぱりニンジャみた~い」

折れたナイフを捨てて、もう一本で王へ斬りかかる。王は発砲して迎え撃つ。更に三度の発砲を避けて、銃を真っ二つに斬り裂いた。その凶刃は止まることなく王の首へと襲いかかった。

ガシッ!

砕「っ!?」

王「やっぱり動く相手に当たらないなぁ。」

銃も銃弾をも斬り裂く凶刃は喉をかっ斬れず、王に掴かまれていた。当然のこと素手だ。砕はその手を斬り落とすつもりで柄に力を込めて動かそうとするがピクリとも動かない。

砕「化け物かっ……。」

王「そんなこと無いよ。それより君……タグ付き……エデンなんだね。生きてるのは初めて見たよ」

パキンっと音がした。掴んでいたナイフの刃を素手でへし折り。傷一つついていない右手で砕のドッグタグを掴む。

砕「触るなッ!」

何本ナイフを仕込んでいるのか腰のあたりから新たな凶刃を引き抜いて王の肩から胸へと振り抜いた。

王「おっと…。」

明らかに斬られてから王は後ろへと避ける。

砕「お前は……なんなんだ。」

刃は確かに斬り裂いた。その証拠に王の上着は肩から胸にかけてパックリと斬り裂かれていた。だが、しかし……一滴の血も、一ミリの傷もついていない。

王「人よりちょーっとだけ頑丈なだけ。あーあ、お気に入りのジャケットだったのになー。ま、いっか。」

そういうと懐から新しい銃を抜いて、銃口を砕の頭部へと向ける。トリガーに指がかかった瞬間、砕は窓を突き破り外へと落下した。
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