ー新伝ー伝説を継ぐもの【2】
ー東口闘路ー
俺は熊彦を支える手を離したドスンっとケツから地面に落下(ちゃくち)する巨体。奴はぎゃっと短い悲鳴をあげて睨みつけているので全然元気はあるようだ。視線を下から前へと向ける。
麒麟児に、氷室薫、それと……誰だか忘れたがノッポがひとり。次に周りを見た、ここはそこそこ広い。自由に手足を伸ばせる流石は闘路と呼ばれているだけはある。人目にはつきにくく、辺りの車の走行音等で遮断されている。どれだけ叫び声をあげても、万が一にも誰かの耳に届きはしないだろう。
俺は伊達眼鏡を外し、上着を脱いだ。熊に渡して前に出る。
「この前は……いいとこ見せられなかった。だが、今回はそうはいかないぜ?」
麒麟児は拳を固める。相変わらず隙だらけで構えとはいえない殴りやすいように拳を添えただけの構えだ。
「俺は……何か特別な事ができる訳じゃない。頭も良くないから……お前がなんで俺の仲間を殴ったりしたのかもわからない。だから、お前を……俺が殴る。それで皆に謝らせる」
俺は気押された。奴のいっていることにでもあるが一番は気迫。人間その一点に執念を持ったとき……とんでもない力を発揮する。そりは常々、俺が側で見てきた彼女(アイドル)等と同じだ。俺の気の迷いを読んだのか、氷室がいった。
「開始(はじ)め!」
「うぉらぁ!!」
爆ぜた栗のように麒麟児はパンチを放ってくる。勢いだけの大振りは当たれば痛い。だが、当然喰らうつもりはない。剛には柔。向かってくる剛拳に対して、俺は手の甲でそれを軽く打つ。それだけでいい、向かい来る剛が速ければ速いほど少しの力で軌道は簡単にそれるのだ。
奴の身体は俺からズレて飛び込んでくる。ここだ。一見隙だらけで、横面、横腹、足、どこでも狙えば当てれる。だが、その定石はこの男には通用しない。ありえないほどの直感と反射神経にカウンターをカウンターされる。ならば、どうするか……簡単だ。「定石には無い」「当たり前」のことをすればいいだけなのだ。
つき抜けていく麒麟児、それを完全に避けきった瞬間……肘をがむしゃらに後ろに引いた。
「ぐぁっ?!」
肘は恐らく背中のどこかに当たったのだろう。肉体を穿つ鈍った音と振動が伝わってくる。
「こっのっ!!」
奴は地面を踏みつけて、百八十度身体を振った。ワンテンポ遅らせて俺も動きを真似(コピー)る。顔をスレスレで突き抜ける奴の拳。対して、俺の拳は奴の顔を叩いた。口、もしくは鼻の掠めたらしく液体が付着した。奴は独楽のように何度か回って倒れた。遠心力+奴がこちらへ向かった来る加速+固めた拳の直撃だ。普通なら悶絶ものだろう。
「ぐぁ……っ…」
「上手くいくか心配だったけど……成功したな。」
直感と絶対回避と超反射神経。一見文字にしてみれば無敵とも思える能力。だが、そんなことは無い。すべてはあるひとつの事を阻止すればいいだけなのだ。答えは目。直感とは不可思議な能力では無い目が捉え脳が危険なことを処理しているのだ。あとは簡単だ。危険を処理した脳は迅速に身体にどう動けばいいかの信号を発する。この男はそういうタイプなのだ。頭の回転が遅い訳じゃない……速すぎるのだ。
「さぁ……お前の攻略は完了だ。」
「ゲッホゲッ……俺はまだ、立てる。」
「そうか……お前も諦めが悪いんだな。いいぜ、足腰立たなくなるまで殴ってやるよ」
パターン化できてしまったものほど攻略が簡単なことも無い。相手の攻撃を待ち、避けて、死角から攻める。フルカウンターショットの連打にタフガイも流石に膝をついた。今なら正面からの攻撃でも避けられないだろう。俺は拳をといた。壁にもたれて突っ立てる男にいう。
「もう十分だろ。アンタも止めたらどうなんだ。」
「……ふむふむ、なるほど、麒麟児さんの無意識は視覚捉え脳が高速処理するゆえに起きる反射反撃と反射回避を起こしていた訳ですか……そうなるとすべての事も理解できますね。ヘタに武術の気を持ってしまえば独自の動きができなくなる。なので基本的な動きもデタラメ。実に惜しいですね……もし意識下でソレができるなら崇と同じ領域に立てたでしょうに……。」
氷室はブツブツと何かつぶやきながらパンっと手を打って俺と麒麟児の間に立った。いつかの時と同じだ。今回はキッチリと勝敗は……ついたが。俺は膝をついて肩で息をしている奴から視線を逸らした。これでいい。
「さて多分、これ以上続けても無駄なので一時中断させていただきますが……」
「おい、一時ってなんだ。もう十分だろ」
「本当にそうですか?」
「なに?」
「いえ、確かにこのままいけば決着はつくでしょうね。ですが……私のシナリオではもう少しいい感じで和解してくれると思ってたのですが……やはり、悠さんのようにはいきませんね。そしてアナタも悠さんのようにはなれませんね」
引っかかるものいい、いや、カチンと来た。
「こんな喧嘩に悠もなにも無いだろ」
「そうでしょうか……少なくとも、悠さんなら一方的な弱点を突く賢い闘い方はしないでしょうね。あの人は良い意味で馬鹿ですから、拳で語りあうとかやってくださったはずです。」
俺は熊彦を支える手を離したドスンっとケツから地面に落下(ちゃくち)する巨体。奴はぎゃっと短い悲鳴をあげて睨みつけているので全然元気はあるようだ。視線を下から前へと向ける。
麒麟児に、氷室薫、それと……誰だか忘れたがノッポがひとり。次に周りを見た、ここはそこそこ広い。自由に手足を伸ばせる流石は闘路と呼ばれているだけはある。人目にはつきにくく、辺りの車の走行音等で遮断されている。どれだけ叫び声をあげても、万が一にも誰かの耳に届きはしないだろう。
俺は伊達眼鏡を外し、上着を脱いだ。熊に渡して前に出る。
「この前は……いいとこ見せられなかった。だが、今回はそうはいかないぜ?」
麒麟児は拳を固める。相変わらず隙だらけで構えとはいえない殴りやすいように拳を添えただけの構えだ。
「俺は……何か特別な事ができる訳じゃない。頭も良くないから……お前がなんで俺の仲間を殴ったりしたのかもわからない。だから、お前を……俺が殴る。それで皆に謝らせる」
俺は気押された。奴のいっていることにでもあるが一番は気迫。人間その一点に執念を持ったとき……とんでもない力を発揮する。そりは常々、俺が側で見てきた彼女(アイドル)等と同じだ。俺の気の迷いを読んだのか、氷室がいった。
「開始(はじ)め!」
「うぉらぁ!!」
爆ぜた栗のように麒麟児はパンチを放ってくる。勢いだけの大振りは当たれば痛い。だが、当然喰らうつもりはない。剛には柔。向かってくる剛拳に対して、俺は手の甲でそれを軽く打つ。それだけでいい、向かい来る剛が速ければ速いほど少しの力で軌道は簡単にそれるのだ。
奴の身体は俺からズレて飛び込んでくる。ここだ。一見隙だらけで、横面、横腹、足、どこでも狙えば当てれる。だが、その定石はこの男には通用しない。ありえないほどの直感と反射神経にカウンターをカウンターされる。ならば、どうするか……簡単だ。「定石には無い」「当たり前」のことをすればいいだけなのだ。
つき抜けていく麒麟児、それを完全に避けきった瞬間……肘をがむしゃらに後ろに引いた。
「ぐぁっ?!」
肘は恐らく背中のどこかに当たったのだろう。肉体を穿つ鈍った音と振動が伝わってくる。
「こっのっ!!」
奴は地面を踏みつけて、百八十度身体を振った。ワンテンポ遅らせて俺も動きを真似(コピー)る。顔をスレスレで突き抜ける奴の拳。対して、俺の拳は奴の顔を叩いた。口、もしくは鼻の掠めたらしく液体が付着した。奴は独楽のように何度か回って倒れた。遠心力+奴がこちらへ向かった来る加速+固めた拳の直撃だ。普通なら悶絶ものだろう。
「ぐぁ……っ…」
「上手くいくか心配だったけど……成功したな。」
直感と絶対回避と超反射神経。一見文字にしてみれば無敵とも思える能力。だが、そんなことは無い。すべてはあるひとつの事を阻止すればいいだけなのだ。答えは目。直感とは不可思議な能力では無い目が捉え脳が危険なことを処理しているのだ。あとは簡単だ。危険を処理した脳は迅速に身体にどう動けばいいかの信号を発する。この男はそういうタイプなのだ。頭の回転が遅い訳じゃない……速すぎるのだ。
「さぁ……お前の攻略は完了だ。」
「ゲッホゲッ……俺はまだ、立てる。」
「そうか……お前も諦めが悪いんだな。いいぜ、足腰立たなくなるまで殴ってやるよ」
パターン化できてしまったものほど攻略が簡単なことも無い。相手の攻撃を待ち、避けて、死角から攻める。フルカウンターショットの連打にタフガイも流石に膝をついた。今なら正面からの攻撃でも避けられないだろう。俺は拳をといた。壁にもたれて突っ立てる男にいう。
「もう十分だろ。アンタも止めたらどうなんだ。」
「……ふむふむ、なるほど、麒麟児さんの無意識は視覚捉え脳が高速処理するゆえに起きる反射反撃と反射回避を起こしていた訳ですか……そうなるとすべての事も理解できますね。ヘタに武術の気を持ってしまえば独自の動きができなくなる。なので基本的な動きもデタラメ。実に惜しいですね……もし意識下でソレができるなら崇と同じ領域に立てたでしょうに……。」
氷室はブツブツと何かつぶやきながらパンっと手を打って俺と麒麟児の間に立った。いつかの時と同じだ。今回はキッチリと勝敗は……ついたが。俺は膝をついて肩で息をしている奴から視線を逸らした。これでいい。
「さて多分、これ以上続けても無駄なので一時中断させていただきますが……」
「おい、一時ってなんだ。もう十分だろ」
「本当にそうですか?」
「なに?」
「いえ、確かにこのままいけば決着はつくでしょうね。ですが……私のシナリオではもう少しいい感じで和解してくれると思ってたのですが……やはり、悠さんのようにはいきませんね。そしてアナタも悠さんのようにはなれませんね」
引っかかるものいい、いや、カチンと来た。
「こんな喧嘩に悠もなにも無いだろ」
「そうでしょうか……少なくとも、悠さんなら一方的な弱点を突く賢い闘い方はしないでしょうね。あの人は良い意味で馬鹿ですから、拳で語りあうとかやってくださったはずです。」