ー新伝ー伝説を継ぐもの【2】
ースカイタワー内(闘技場)ー
ユウはさらに力を込めた。もはや手のひらの2/3が悠の体内に収まっていた。
「ぐっ……あ゛ぁ゛ぁ゛……。」
悲鳴と混ざりぐぢゃぢゃと歪な音がする。何が起こっているかは想像がつく、突き刺した指を体内で動かしたのだろう。麻酔なしで腹の中をかき回されるなど常人でなくとも耐えられるわけがない。異物が動き回るのと激痛に悠はその手を抜く力も出来ずに膝を折ってしまった。ひれ伏しかけの状態でユウを見上げる。
「絶対に勝たせてもらうぞっ!!」
潰れた指ごと無理矢理こぶししたユウは、その手を何度も振った。顔の右頬、左頬、肩、頭、部位など関係なく殴り続ける。防御をしようにも手は突きたてられている手刀を押さえつけるので精いっぱいだ。だが、どちらにしてももう先は無い、殴られて気絶するか、出血多量で落ちるかの二択だ。ユウはトドメとばかりに大きく腕を振り上げたが予想だにしないことが起こった。自分の身体が引っ張られる。ユウは驚いて声をあげた。
「なっ?!」
「ぐっ……そんなにっ……突き刺したいならもっと奥まで刺せよ!!」
視線を動かすとユウの手はほぼ手首までめり込んでいた。そして、次に襲ったのは恐ろしいほどの圧迫感だった。突き立った手を体内で圧し潰しかねないほど悠は腹筋に力を込めた。このままではこっちが危ないと引き抜こうとしたユウだがビクともしない。それどころか目のまえではカチカチに固まった拳がゆっくりと伸びてくる。吐血混じりの唾を吐きながら悠はいった。
「覚えとけ……おれ……俺はな死んでも柏の真似なんかしねーんだよっ!!」
石、鉄の塊り、ボウリングの玉、そのどれよりも硬い物がユウの顔を打ちつけた。軟骨が砕ける音よりも、歯が折れる音よりも、突き立っていた手が抜ける音のが一番大きかった。頭から後ろに飛んで、ユウは大の字に倒れる。その右手はどす赤黒く染まっていた。悠はどてっ腹に大穴があきそこからは、壊れたじゃ口のように血がタレ流れ出していた。それでも立ち上がる。
「っ……あっ……はぁ。」
鼻が……顔が潰れ何の液体か分からない程ぐしゃぐしゃになってもまだユウは立ち上がった。どっちも引き際はどっちかが倒れるしかないのだ。ユウは吐き出すように言った。
「なん……で……倒れねーんだよ」
「よく、聞かれるけどな……こうとしかいえねぇよ。俺は……我慢強いんだよ!」
そのひと言に約四名の男が観客席で大笑いしていた。声だけで悠には誰かは分かっていた。虎狗琥崇、右京山寅、雷太郎、風太郎の四人。それにつられてか極限状態でおかしくなってしまったのか……ユウも大笑いする。
「ふっふふ、あは、あはははははははははははははははは!!そ、そうか、そうか我慢強いのか!」
「はは、笑うなよな。」
空気がなごんでいく。もちろん片方は顔が潰れ、片方は腹に穴が開いて今も流血しているのに、二人は笑っていた。
「はーひぃー……ひひっ、はぁー……楽しい過ぎる…よ。」
「へっ…こっちは……痛いばっかりだっーの。」
「なら、起きるなよ。」
「そういう訳には……いかないんだよ。俺は小鳥遊悠だからな……この名前を持って堕ちていくんだ。」
「……小鳥遊悠は重たいんだな」
「全然……うすっぺらくて軽いくらいだけどな。他の奴が背負って馬鹿を見る必要が無いって事だ。」
「…………なら、俺が今変わってやるよその名前をな。」
「だったら……ひとつ、俺からも教えてやるよ。手を伸ばせ」
立っているのもやっとの悠がそういうと、ユウは疑問も躊躇も持たずに自分の右手を差し出した。その手を丁寧に左手で添えて右手で指を折っていく。小指から各指の根元へ順に薬指から中指へと……
「ここからは、逆だ。人差し指から順に折りたたみ仕上げは親指で絞める。」
出来上がったのは拳(こぶし)だ。
「力を掴む。掴んだ力を打ちこむんだ。」
腹に穴の空いた悠もこぶしを握り右腕を前に突きだす。顔の潰れたユウも同じようにこぶしを握って右腕を突きだした。ゆっくり、ゆっくりと近づき合う。その拳の先端が軽くぶつかり合った。それが最後のゴングになった。
人類最古にして、最良の武器それが拳だ。折りたたんだ指は力を抜き親指でそっと押えておく。構えに拘るな、拳の配置は肉体(からだ)に聞け。防御の一切を忘れろ。重心を前足拇指球へと集めろ。打ちこむことだけに集中しろ、その他一切を濁りとしろ。
己の全存在を乗せた「拳」はすべてに勝る。
通用するもしないもない。
思う必要すらない。
強さ比べっていうのはそういうものだ。
ドギャッ!!!!!
拳骨が顔面を打つその音は今宵二人が放った一番大きな音だっただろう。
そして……全力の拳骨を正面から受け止めあった二匹の雄の一方は床に這いつくばった。
残った漢(おとこ)がいう。
「小鳥遊悠は……お前には勿体ない。でも……まだ、それでも俺に……こんなおれなりたいっていうのなら……いつでも来い……待っててやる。五年でも、十年でも……いつでもこい。」
そう言い残して、悠、小鳥遊悠はヨタヨタと来た道を歩きはじめる。鉄格子が解除されると二人の男が飛び降りてくる。熊のような男と金髪の男が悠と入れ替わりに倒れてるユウの元へ向かった。
「悠、あいや、え、えーと……んー偽ユウ!」
「おい、大丈夫か!偽ユウ」
入ってきた出入口に入る前に悠は振り向いていった。
「ははっ……偽ユウ。慕われてるじゃ……ねーか。本物なんかよりも……よっ。」
そしてドアは……閉じられた。
ユウはさらに力を込めた。もはや手のひらの2/3が悠の体内に収まっていた。
「ぐっ……あ゛ぁ゛ぁ゛……。」
悲鳴と混ざりぐぢゃぢゃと歪な音がする。何が起こっているかは想像がつく、突き刺した指を体内で動かしたのだろう。麻酔なしで腹の中をかき回されるなど常人でなくとも耐えられるわけがない。異物が動き回るのと激痛に悠はその手を抜く力も出来ずに膝を折ってしまった。ひれ伏しかけの状態でユウを見上げる。
「絶対に勝たせてもらうぞっ!!」
潰れた指ごと無理矢理こぶししたユウは、その手を何度も振った。顔の右頬、左頬、肩、頭、部位など関係なく殴り続ける。防御をしようにも手は突きたてられている手刀を押さえつけるので精いっぱいだ。だが、どちらにしてももう先は無い、殴られて気絶するか、出血多量で落ちるかの二択だ。ユウはトドメとばかりに大きく腕を振り上げたが予想だにしないことが起こった。自分の身体が引っ張られる。ユウは驚いて声をあげた。
「なっ?!」
「ぐっ……そんなにっ……突き刺したいならもっと奥まで刺せよ!!」
視線を動かすとユウの手はほぼ手首までめり込んでいた。そして、次に襲ったのは恐ろしいほどの圧迫感だった。突き立った手を体内で圧し潰しかねないほど悠は腹筋に力を込めた。このままではこっちが危ないと引き抜こうとしたユウだがビクともしない。それどころか目のまえではカチカチに固まった拳がゆっくりと伸びてくる。吐血混じりの唾を吐きながら悠はいった。
「覚えとけ……おれ……俺はな死んでも柏の真似なんかしねーんだよっ!!」
石、鉄の塊り、ボウリングの玉、そのどれよりも硬い物がユウの顔を打ちつけた。軟骨が砕ける音よりも、歯が折れる音よりも、突き立っていた手が抜ける音のが一番大きかった。頭から後ろに飛んで、ユウは大の字に倒れる。その右手はどす赤黒く染まっていた。悠はどてっ腹に大穴があきそこからは、壊れたじゃ口のように血がタレ流れ出していた。それでも立ち上がる。
「っ……あっ……はぁ。」
鼻が……顔が潰れ何の液体か分からない程ぐしゃぐしゃになってもまだユウは立ち上がった。どっちも引き際はどっちかが倒れるしかないのだ。ユウは吐き出すように言った。
「なん……で……倒れねーんだよ」
「よく、聞かれるけどな……こうとしかいえねぇよ。俺は……我慢強いんだよ!」
そのひと言に約四名の男が観客席で大笑いしていた。声だけで悠には誰かは分かっていた。虎狗琥崇、右京山寅、雷太郎、風太郎の四人。それにつられてか極限状態でおかしくなってしまったのか……ユウも大笑いする。
「ふっふふ、あは、あはははははははははははははははは!!そ、そうか、そうか我慢強いのか!」
「はは、笑うなよな。」
空気がなごんでいく。もちろん片方は顔が潰れ、片方は腹に穴が開いて今も流血しているのに、二人は笑っていた。
「はーひぃー……ひひっ、はぁー……楽しい過ぎる…よ。」
「へっ…こっちは……痛いばっかりだっーの。」
「なら、起きるなよ。」
「そういう訳には……いかないんだよ。俺は小鳥遊悠だからな……この名前を持って堕ちていくんだ。」
「……小鳥遊悠は重たいんだな」
「全然……うすっぺらくて軽いくらいだけどな。他の奴が背負って馬鹿を見る必要が無いって事だ。」
「…………なら、俺が今変わってやるよその名前をな。」
「だったら……ひとつ、俺からも教えてやるよ。手を伸ばせ」
立っているのもやっとの悠がそういうと、ユウは疑問も躊躇も持たずに自分の右手を差し出した。その手を丁寧に左手で添えて右手で指を折っていく。小指から各指の根元へ順に薬指から中指へと……
「ここからは、逆だ。人差し指から順に折りたたみ仕上げは親指で絞める。」
出来上がったのは拳(こぶし)だ。
「力を掴む。掴んだ力を打ちこむんだ。」
腹に穴の空いた悠もこぶしを握り右腕を前に突きだす。顔の潰れたユウも同じようにこぶしを握って右腕を突きだした。ゆっくり、ゆっくりと近づき合う。その拳の先端が軽くぶつかり合った。それが最後のゴングになった。
人類最古にして、最良の武器それが拳だ。折りたたんだ指は力を抜き親指でそっと押えておく。構えに拘るな、拳の配置は肉体(からだ)に聞け。防御の一切を忘れろ。重心を前足拇指球へと集めろ。打ちこむことだけに集中しろ、その他一切を濁りとしろ。
己の全存在を乗せた「拳」はすべてに勝る。
通用するもしないもない。
思う必要すらない。
強さ比べっていうのはそういうものだ。
ドギャッ!!!!!
拳骨が顔面を打つその音は今宵二人が放った一番大きな音だっただろう。
そして……全力の拳骨を正面から受け止めあった二匹の雄の一方は床に這いつくばった。
残った漢(おとこ)がいう。
「小鳥遊悠は……お前には勿体ない。でも……まだ、それでも俺に……こんなおれなりたいっていうのなら……いつでも来い……待っててやる。五年でも、十年でも……いつでもこい。」
そう言い残して、悠、小鳥遊悠はヨタヨタと来た道を歩きはじめる。鉄格子が解除されると二人の男が飛び降りてくる。熊のような男と金髪の男が悠と入れ替わりに倒れてるユウの元へ向かった。
「悠、あいや、え、えーと……んー偽ユウ!」
「おい、大丈夫か!偽ユウ」
入ってきた出入口に入る前に悠は振り向いていった。
「ははっ……偽ユウ。慕われてるじゃ……ねーか。本物なんかよりも……よっ。」
そしてドアは……閉じられた。