ー新伝ー伝説を継ぐもの【2】
ースカイタワー内(闘技場)ー
「打ってこいよ」
迎撃体勢を捨てたユウは悠を挑発する。そして幾人かの観客は気がついた。アレをやる気だと……そして、ソレに気がついたのは悠も同じ。それでも当然その餌(挑発)に喰らいついた。
悠はストレートを放つ。まっすぐ伸びる拳より高くユウは跳ね上がり右足で悠の顔面を蹴り飛ばした。零距離ソバット……悠から千夜に渡り数々の者が犠牲となってきた超ハイリスクカウンターの蹴り。着地と同時にユウは思わず笑ってしまった。確実にクリティカルヒットしたが、悠は倒れることなく歯を食いしばり立っていたのだ。
「はは、マジ……かよ」
鼻の穴を片方押えて勢いよく空気を吹きだすと一緒に血も飛び散った。悠はペッと唾を吐き、腕を下げていった。
「打ってこいよ」
「ほぅ……。」
零距離ソバットを受けて、零距離ソバットを仕掛ける宣言だった。ユウももちろんその餌(挑発)に食いついた。左ストレートが伸び、同じように悠の姿が消える。何もかも同じ……だが、さっきと違う部分がひとつだけあった。ユウの右腕はしっかりと自分の顔をガードしていた。しかも頭傾かせデコを腕に当てているので蹴られてもダメージは極限まで抑えられる。それどころか跳ね返して逆に地面に落とすことさえ可能かもしれない。そんな万全の態勢で待っていたユウの身体は大きく左に飛んだ。側頭部にとんでもない衝撃がぶつかり吹き飛ばされたのだ。地面に倒れるユウの目には悠の足が見えていた。頭の上から声が降ってくる。
「零距離ソバット・改、別名、零距離サマーソルト(プロトタイプ)だ。」
ソバットの場合は飛び上がり顔面を前から蹴り飛ばすのに対し、サマーソルトは横払いで蹴る。ただし、この場合ソバットと違い技動作に
時間が大きくかかり、ユウのように自分で視覚を遮っていたからの成功と言える。もし、見えていたのなら叩き落とす事すら可能だっただろう。
……っが、そんな反省をしてる暇なんか今はあるわけがなかった。見えていた悠の足がグンッと近づいて跳ね飛ばしたのだ。追い打ちを決める容赦ない蹴り。ユウは横たわったままグルン、グルンと床を回転していく。
「やろ……ぉ。」
ボタボタと口と鼻から血をこぼしながらユウは立ち上がる。余裕があるのか頭を打ち過ぎて痛みがぶっ飛んでいるのかは分からないが、どっちも拳を収めない。だが、ここで決定的に違いがでてきた。ユウは両手を前に突きだした構え、悠はいつもの拳を胸元と前に突きだした構えだ。素人目に見ても拳法VS喧嘩な感じだった。息つく暇も無く打ちあいは始まった。
悠の右ストレートを左手で受け止めユウは自分の方に引き、左の掌で顔を打った。理想的なほどの退掌。中国拳法の見本、教科書でも見ているような動きは……。
「摩耶みたいだぜ……。」
顔を打たれ裂けた唇から見える歯が赤く色づいている。折れていないのが不思議なほどだった。悠はそれでも笑う。血染めの八重歯が見えるほどに……。威圧的にそして直感的にユウはより構えを硬く固めた。
「なら、おれも摩耶、それに鈴猫の力を借りるかな」
右足を前に、左足を後ろに引いて肩と背中をユウに向ける。何が起こるのか分かったユウはとっさに構えを解こうとしたが、それは少し遅かった。ドンッと床を踏みつけて背中から悠がぶつかったのだ。八極・鉄山靠、八極拳における技の一。 「靠」とは身体の背面のことで もたれるという意味で、ショートレンジでの体当たりの形を指す。全身でぶつかってくる一撃に両の手のひらだけで受け止められる道理など無い。ユウは回避も出来ずに衝撃に耐えることも叶わぬまま鉄の棒へと打ちつけられた。
「ふぅーー……はぁ。」
ダメージが大きいのはユウだが、渾身の踏み込みによる衝撃は傷口を開き広げるのも当然だった。軍パンの色が変わるほどに血があふれ出ていた。もはや締めている腹の布は止血の役割を果たしていない。この勝負の行方は出血多量で悠が動かなくなるのが先か……。
「ハァハァ……まだ、だっ!」
鉄柵を掴み身体も顔も痣だらけで立ち上がるユウが動かなくなるのが先かだった。カラフルな痣だらけの男がいった。
「卑怯でも……お前のことを倒すぞ」
「来いよ。おれを……俺を倒すなら殺す気でかかってこいっ!!!」
掴んでいた鉄柵を押して、ユウは前に出た。そして左の指が目を潰そうと狙う。両の男がぶつかる瞬間ガシュッ!!肉が引きちぎれる音が鳴った。悠の目は健在、ただしユウの左手の指は拳に阻まれぐしゃぐしゃに潰れていた。たしかに眼潰しは卑怯な技だった。だが、その成功率など余程でないとまず確実に目を潰すことなどありえない。なぜ、そんな技をこの局面で使ってきたのかの理由は悠の声で観客は理解する。
「ぐ……まぢか……まさか、はぁっ柏のクソっは、野郎みたいなことしてくれるぢゃん…んっ」
悠の腹部、開いた傷口に深々とユウの指がめり込んでいた。親指を除くすべての指が突き立っていたのだ。接合面から夥しいほどの血が流れ出す。
「打ってこいよ」
迎撃体勢を捨てたユウは悠を挑発する。そして幾人かの観客は気がついた。アレをやる気だと……そして、ソレに気がついたのは悠も同じ。それでも当然その餌(挑発)に喰らいついた。
悠はストレートを放つ。まっすぐ伸びる拳より高くユウは跳ね上がり右足で悠の顔面を蹴り飛ばした。零距離ソバット……悠から千夜に渡り数々の者が犠牲となってきた超ハイリスクカウンターの蹴り。着地と同時にユウは思わず笑ってしまった。確実にクリティカルヒットしたが、悠は倒れることなく歯を食いしばり立っていたのだ。
「はは、マジ……かよ」
鼻の穴を片方押えて勢いよく空気を吹きだすと一緒に血も飛び散った。悠はペッと唾を吐き、腕を下げていった。
「打ってこいよ」
「ほぅ……。」
零距離ソバットを受けて、零距離ソバットを仕掛ける宣言だった。ユウももちろんその餌(挑発)に食いついた。左ストレートが伸び、同じように悠の姿が消える。何もかも同じ……だが、さっきと違う部分がひとつだけあった。ユウの右腕はしっかりと自分の顔をガードしていた。しかも頭傾かせデコを腕に当てているので蹴られてもダメージは極限まで抑えられる。それどころか跳ね返して逆に地面に落とすことさえ可能かもしれない。そんな万全の態勢で待っていたユウの身体は大きく左に飛んだ。側頭部にとんでもない衝撃がぶつかり吹き飛ばされたのだ。地面に倒れるユウの目には悠の足が見えていた。頭の上から声が降ってくる。
「零距離ソバット・改、別名、零距離サマーソルト(プロトタイプ)だ。」
ソバットの場合は飛び上がり顔面を前から蹴り飛ばすのに対し、サマーソルトは横払いで蹴る。ただし、この場合ソバットと違い技動作に
時間が大きくかかり、ユウのように自分で視覚を遮っていたからの成功と言える。もし、見えていたのなら叩き落とす事すら可能だっただろう。
……っが、そんな反省をしてる暇なんか今はあるわけがなかった。見えていた悠の足がグンッと近づいて跳ね飛ばしたのだ。追い打ちを決める容赦ない蹴り。ユウは横たわったままグルン、グルンと床を回転していく。
「やろ……ぉ。」
ボタボタと口と鼻から血をこぼしながらユウは立ち上がる。余裕があるのか頭を打ち過ぎて痛みがぶっ飛んでいるのかは分からないが、どっちも拳を収めない。だが、ここで決定的に違いがでてきた。ユウは両手を前に突きだした構え、悠はいつもの拳を胸元と前に突きだした構えだ。素人目に見ても拳法VS喧嘩な感じだった。息つく暇も無く打ちあいは始まった。
悠の右ストレートを左手で受け止めユウは自分の方に引き、左の掌で顔を打った。理想的なほどの退掌。中国拳法の見本、教科書でも見ているような動きは……。
「摩耶みたいだぜ……。」
顔を打たれ裂けた唇から見える歯が赤く色づいている。折れていないのが不思議なほどだった。悠はそれでも笑う。血染めの八重歯が見えるほどに……。威圧的にそして直感的にユウはより構えを硬く固めた。
「なら、おれも摩耶、それに鈴猫の力を借りるかな」
右足を前に、左足を後ろに引いて肩と背中をユウに向ける。何が起こるのか分かったユウはとっさに構えを解こうとしたが、それは少し遅かった。ドンッと床を踏みつけて背中から悠がぶつかったのだ。八極・鉄山靠、八極拳における技の一。 「靠」とは身体の背面のことで もたれるという意味で、ショートレンジでの体当たりの形を指す。全身でぶつかってくる一撃に両の手のひらだけで受け止められる道理など無い。ユウは回避も出来ずに衝撃に耐えることも叶わぬまま鉄の棒へと打ちつけられた。
「ふぅーー……はぁ。」
ダメージが大きいのはユウだが、渾身の踏み込みによる衝撃は傷口を開き広げるのも当然だった。軍パンの色が変わるほどに血があふれ出ていた。もはや締めている腹の布は止血の役割を果たしていない。この勝負の行方は出血多量で悠が動かなくなるのが先か……。
「ハァハァ……まだ、だっ!」
鉄柵を掴み身体も顔も痣だらけで立ち上がるユウが動かなくなるのが先かだった。カラフルな痣だらけの男がいった。
「卑怯でも……お前のことを倒すぞ」
「来いよ。おれを……俺を倒すなら殺す気でかかってこいっ!!!」
掴んでいた鉄柵を押して、ユウは前に出た。そして左の指が目を潰そうと狙う。両の男がぶつかる瞬間ガシュッ!!肉が引きちぎれる音が鳴った。悠の目は健在、ただしユウの左手の指は拳に阻まれぐしゃぐしゃに潰れていた。たしかに眼潰しは卑怯な技だった。だが、その成功率など余程でないとまず確実に目を潰すことなどありえない。なぜ、そんな技をこの局面で使ってきたのかの理由は悠の声で観客は理解する。
「ぐ……まぢか……まさか、はぁっ柏のクソっは、野郎みたいなことしてくれるぢゃん…んっ」
悠の腹部、開いた傷口に深々とユウの指がめり込んでいた。親指を除くすべての指が突き立っていたのだ。接合面から夥しいほどの血が流れ出す。