ー新伝ー伝説を継ぐもの【2】

ースカイタワー内(闘技場)ー

崇は口を閉じらせろとジェッチャーをすると、男のネクタイをほどいて口をさるぐつわする。同時に手に持った針の束をひとまとめにして男の足に思い切り叩きつけた。皮靴も皮膚も肉も骨も簡単に貫いて床へ突き立つ。叫びをあげることも激痛にのたうつことも出来ずに男は悶絶していた。崇は見向きもせずにいう。

「お前の処遇は後だ。それよりやっと始まるんだからな……」

崇の隣で涼しい顔をして微笑んでいた氷室薫はメガネを光らせていった。

「どうみます?」

「幸か不幸か手負いの悠と妄想と虚構から覚めた男。生きて堕ちるだけの男と夢を叶えようとすべてをかなぐり捨てる覚悟の男。どちらがどうなっても……小鳥遊悠はひとりだけということだ。」






悠は一番最初の対峙と同じ位置に立つ。ただ男はもはやただ立っているだけの人形同然だ。悠は髪をかきあげて睨みつけていった。

「いつまで呆けてる構えろよ」

「……俺は……」

「お前は小鳥遊悠なんだろ。」

「……」

「だったら、どこまでもそうあれよ!最後の最後の最後の最後までつきらぬき通せ!!!それでなり通してみろよ小鳥遊悠に!!」

男はうつむいたまま呟く。

「……アレはわざとじゃないんだ」

「あー?」

「針は使うつもりなんか……」

「そんなもん……関係ないだろ。針を使ったのはどっかの誰かだろ。今のお前は……誰だよ?」

「は、はは……悠はカッコいいな…………いくぞ。偽物!!」

「来いよ!!偽物!!」

ドッ!!ゴォン!!!悠とユウの拳が伸びて互いの顔を打つ音と同時に、舞台の裾から鉄の棒が生えた。誰の意図かは不明だが乱入者避けの鉄柵が今更作動したらしい。もちろん、その中央で殴り合っている男たちは名の反応も無く殴り合いを続けていた。

互いの拳が引き、今度は逆の拳が同時に顔をうちあう。鏡映しというか自分と自分が殴り合っているようにしか見えない程のシンクロ率だった。そして、同時に後ろに下がる。おさげユウは上着を脱ぎ捨てた。手負いの悠は笑う。

「ほう……よく鍛えてあるじゃん。胸板だけならおれより厚いかもしれないな」

「馬鹿言うな。これが本物の証拠だ」

前に出たのはユウ。それをカウンターしようと悠は肘を振った。だが、ユウの頭はガクンと下がり肘の軌道上から居なくなり、太ももの辺りに腕をまわして足を押えこんだ。

「ぬっ!」

ユウは両の腕に力を込めて引っ張った。両足が一瞬でも空に浮き後頭部から地面に落ちた、ゴォンっと音が鳴り仰向けに倒れる悠の視界は真っ白になる。意識は飛ばなかったもののガードも受け身も取れず硬い床にぶつけたのだ。呻く間もなく悠の顔は拳によってつぶされた。

「お返しだ!!」

開戦直後にやられた破顔の極みの借りを返して、もう一撃と拳を振りおろす。だが、潰したのは顔では無く空だった。ぐりんってと自分の意志とは関係なくユウの視界は真上を向いて、右腕にビキンっと電流のような痛みが走り、胸に衝撃が落ちてきた。ユウ自身は何が起こったか今気がついた事だろう。振りおろした拳が当たるどころか、腕を裁かれ十字架固めに決められたのだ。折ろうとする悠と腕の筋肉を固めてそれを拒むユウ。その膠着状態は長く続かなかった。技を解いたのは意外にも悠の方だった。自由になった右腕を振って起き上ろうとしたが今度は左腕が引っ張られてうつ伏せに倒され、また電撃のような痛みが走る。

「ぐあっ?!」

逆十字固めだった。右、左と技を決めてるもやはり早い分動きが雑だったのか折るまではいかない。そうしているうちに悠はまた技を解いた。今度こそとユウは起き上ろうと両手を突いて上半身を起こしたが首に腕が回される。

「ングッ!」

最後の最後で首を締める。関節技のフルコンボ、床地獄の極みに再び意識が跳びかけユウの頭が下がるも、悠を背負ったままグンッと立ち上がり、前に猛ダッシュして鉄柵にぶつかる寸前上半身を思い切り振った。背負っていた悠はその勢いに負けて鉄柵に投げ飛ばされる。叩きつけられた衝撃で傷口が開いたのか吐血と同時に脇腹からも鮮血が舞う。それでもどっちも止まることはない。双方が肩で息をしながら距離を潰す。

「はぁ……腕痺れてんじゃねーか?」

「ふぅ……そっちこそ血出てるぜ?」

減らず口を叩きつつジリジリと間合いはほぼ互いの必殺距離。すると急にユウが拳を降ろした。
17/100ページ
スキ