ー新伝ー伝説を継ぐもの【2】

ースカイタワー内(闘技場)ー

オォォォオオオォォ!

ドンドンと光が強く目映くなる廊下と何重にも束になった人の声の先を目指した。汗が止まらない、心拍数が跳ね上がって行く。

「この廊下を歩いて戻るとき……いや、俺は……無事に帰れるのか……。」

もう後戻りはできない。最後の覚悟を決めてユウは踏み出した。



っ……一瞬目がくらむほどの光の下にでると予想以上の人の数に息を呑む。とうぜん数だけでいえばライヴの観客とは比べるも無く少ない。だが、たった二人の男の喧嘩を見に来るだけの数には多すぎるほどの人数だった。男に女、ガキから年寄、文字通り老若男女入り乱れていた。

闘技場の作りは大きな鳥かごとでもいえばいいのだろうか。選手出入り口を対に構えて中央に巨大な八角形の舞台。それを取り囲む観客席は球場の観客席のようだった。どうやら上の階をブチ抜きで作っているらしく見上げるともの凄く高い位置にライトが設備されていた。あたりを一望し興奮最高潮の観客からの声を全身に叩きつけられながら舞台に立った。相手はまだ居ない。

逃げて来ない。なんてことはあり得ない。感じる一歩また一歩と近づいてくる気配……。さしてとても長い数秒後、念願の男は現れた。

オオオオオオオオオォォォォォォォォ!!
同時に観客の声はさらにエンジンが増した。

「……」

髪はおぞましいほど黒く長い髪で他人を遮断するかのように垂れ下がり顔が見えない。チャイナ服に似た作りで玉ボタンのカンフーシャツには龍の腹鰭がうねって背中へと繋がり方から鎌首を出している刺繍、下は米軍卸の軍パン。足は裸足。噂に聞いていた通りの姿で特に緊張した様子も無く舞台に上がってきた。そこで一瞬どよめきが走った。観客はここで微妙な疑問をもったのだ。はたしてどっちが本物の小鳥遊悠でどっちが偽物なのかという事に…。先に入った男は真っ黒のワイシャツにグレーのズボンと革靴。髪はもちろん長髪だがこちらは後ろはオサゲを長くのばしていた。

そんなどよめきが広まる中、スピーカーを通して声が飛ぶ。

『はじめいっ!!』

何ものの声かは分からぬ合図にユウは拳を固めた。即座に戦闘態勢に入り、状況を分析する互いの間合いは三メートル前後といったところ。
だが、対照的に悠は構えも取らずに歩きだした。

ユウの脳裏にあらゆる単語が飛んでいく。

「(来た、最短距離、まっすぐ、勇気…)」

自身の射程内に踏み込んだ瞬間、全力で右のフックを放った。無防備に入り込んできた獲物の横顔を刈りとった。……はずだったが、手応えはない。悠は腰を落とし右足を大きく開きほぼ張り付いた状態に距離をつめている。そして、何が起こったか見えていたのは悠の後ろ側にいた観客だけだった。

張り付いた状態からするりと背筋と右の腕が伸びる姿。右の腕の先の硬い拳の終着点は天だった。ユウの顎を完全に捉え勝利ポーズを作りながら穿ったのだ。

ユウの視界に最後に映ったのは自分の首が勝手に上を向いてライトを見つめて、急速に落下していく浮遊感。そしてまっくらな闇だった。
一瞬も一瞬。綺麗に決まったカウンターアッパーを受けて仰向けで白目をむいてる男の顔を悠は覗きこんだ。

ダウンから10秒は経ったころ、ユウは耳に届く人の叫び声にハッと意識を取り戻した。半身を起こすとすぐそばで悠が自分の顔を覗き込んでいて、いった。

「どうする、まだヤレるか」

ドンッ!っと音が響く。硬い地面を蹴り飛ばし距離を置いて立ち上がる。悠は中腰の体制からゆっくりと腰を伸ばして立ち上がった男を視線で追って見た。

「失敗したな。今のノックダウンがお前のラストチャンスだった。」

「……」

「おかげで目が覚めた。準備ができた命のやりとりの……殺られずに殺る。」

「そうか…。」

「ああ、こっからはお前を殺っ……!!」

今度も一瞬だった。間合いを即座に詰めて悠はユウの股間を蹴りあげた。声をあげる間も無い、激痛に前屈みになり、そのまま膝をついた。

「さぁ、またまたチャンスだな」

止まらない。突きだされた顎を蹴り飛ばし、下半身と脳が機能停止状態で仰向けに倒される。悠はその無防備な顔を思い切り踏みつけた。ブチュっと肉が潰れる音と吹きだす血液。完全に意識を失い決着はあっけなくついてしまった。
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