ー新伝ー伝説を継ぐもの【2】

ースカイタワー内:巨大ホールー

今日の気温は0.1度と最低気温を更新した。そんな聖夜に行われたライヴは最高のフィナーレを迎えようとしていた。外気温を吹き飛ばすような熱気と轟音にイルミネーションにも負けないほどのサイリウムの煌めき。タカナシユウは機敏にステップを決めながら踊り歌うアイドル達をぼんやりと眺めていた。誰もかれもが簡単は立てないステージあの子らの努力は実を結んだのだとプロデューサー冥利に尽きる一瞬。

だが、そんな感傷もすぐにかき消された。胸ポケットで震える携帯を抜いた。液晶ディスプレイに表示されたのは秘通知の文字。それも

「はい?」

電話の主は名乗りもせずに用件を伝えてきた。

『西エレベーターから20階へ』

こっちが何かを言う前に突然切れてしまう。ユウは小さくため息をつくと電話を終って立ちあがってもう一度アイドル達を見た。今の流れているメドレーが終わってラストソング。できることなら聞き終わってから行きたかった。

「さて、行くか……。」

そっとドアを開けると腕を組んだ男が立ちはだかっていた。例えるならジャージを着た熊だ。
ユウは何もいわずに熊を無視して歩きだす。
熊彦は男の後ろにいてのそのそと歩きながらいった。

「気分は?」

「上々だ。」

「そうか……所でアレを使うのか?」

「……」

ユウは口をつぐんでいた。アレとはさっき別室で話した男……小鳥遊悠を事故に見せかけて殺せといってきた男から渡された。針、蛾眉刺という暗器の一種。もし負けそうになったらそれを突きたてろといってきた。熊彦は、その凶器を断りもせずに受け取っていたことに内心腹立てていたのだった。

「そんなもん、あの場で捨ててやればよかったんだ。」

「騒ぎを起こしたくなかった。それだけだ」

「騒ぎもクソも先に向こうから仕掛けて来てたじゃねーか」

怒鳴りつける熊彦の言葉が耳に入っていないのかユウは淡々と歩みを進めた。何もいわぬままエレベーターの前に着くとひとりの男居る。ユウに気がつくと深々とお辞儀をしていった。

「タカナシ様ですね。どうぞ、こちらへ」

スタイリッシュなスーツに赤の蝶ネクタイにまっ白の手袋をつけた初老の男は丁寧な動きでエレベーターの扉を開く。ユウは軽く会釈して中に入り、熊彦もその後に続こうとしたが初老の御仁の手に阻まれた。紳士はいう。

「申し訳ございません。こちらは選手専用となっております。ご観覧の場合はあちらのエレベーターからお願いいたします。」

熊彦は何かを言いかけたが首を振った。初老のもエレベーターに乗り込み扉が閉まる寸前ユウがいった。

「熊彦、すまん」

「は?おい!ちょっと待て!おいっ!!」

熊彦の声は届くことなくエレベーターは上昇していく。二人きりとなった密室。初老の紳士がいった。

「お連れの方でしたか?」

「いや、ちょっとした……顔見知りだ。」

「そうですか。」

このエレベーターが止ってしまったら……ついに始まる。すべてが許されて反則が無く、レフリーが居ない、ノックアウトも無い究極の完全決着。ユウの背筋に冷たいものが走る。それを無意識に感じ取った紳士が尋ねた。

「いかがなされましたか?」

「いや…なんでもない。」

チンっと音が鳴りドアが開く。

「今夜は大勢集まっています。貴方様の勇気を見るために。」

「……」

「どうぞご案内いたします。」

下の階とは打って変わり薄暗く冷たい廊下を歩き、つきあたりにつくとそこは壁だった。文字通り行き止まりだ。

「どうした?まさか、間違えたとかいわないよな」

「いえ、こちらであっています」

老紳士がしゃがみ床で何かをするとカチッと機械的な音がして壁の真ん中から割れて左右に開いていく。007のギミックションみたいな仕掛けだ。老紳士は立ち上がると振りむいた。
法令線深々と刻んだ笑顔を向けていった。

「どうぞ」

「あぁ。」

まっくろな壁の中に入るとすぐにドアは閉じられた。一瞬全体が闇に包まれたがすぐに証明がつく。

「ここを進み切れば闘技場です。途中にロッカールームがありますが……着替えはなさいますか?」

「いや、上着とネクタイだけ預かっておいてくれ。」

「かしこまりました。御武運を」

老紳士に携帯と脱いだものを預けて先へ進んだ。
13/100ページ
スキ