ー日常ー街の住人達【10】

-十鳥動物病院:仮部屋-

春彦「くそっ…なんて獣医だよ…こんな奴の所にずっと居たいと思ったなんて……。」

十鳥「フンッ。」

そう言い溢して春彦はシロを連れて病院から出ていった。夜道を歩いていると背後から女性の声が飛んできた。

明日香「待って、私も一緒に行くわ」

春彦「あ、あんた……」

後を追ってきたのは明日香だった無理やり荷物を詰め込んだのかカバンはパンパンに膨れている。

明日香「わたしもバカだったわ。あんなひどい人だとは思わなかった。」

そういって涙をこぼして憤慨している。

春彦「お、おい泣くなよ…」

明日香「だって…春彦くん、あんな頑張ってたのに…」

春彦「…まったくあの野郎コキ使うだけコキ使いやがって。あげくの果てには言葉の通じない猫に「ノー」と教えろなんて…」

明日香「えっ?春彦くん毎晩シロにいってなかった?」

春彦「えっ…?」

明日香「えっ?今猫に「ノー」って教えるっていわなかった?あ、ゴメン違った?」

いわれたことが理解できず春彦は明日香の腕を掴んで詰め寄った。

春彦「俺が何したって!?」

明日香「だ、だから春彦くんシロが毎日エサくれとか撫でてとかいっても、エサの時間じゃない時や忙しいときはダメだっていってたじゃない。「ノー」ってそれとは違うの?」

それを聞いて春彦は抱えているキャリーゲージを地面において蓋を開けてシロを出した。

春彦「シロ…。」

抱きかかえるも暴れることもなくシロは大人しく春彦を見つめている。

明日香「えっ、ええ!?シロなの?これが…か、噛まない?」

春彦「これがシロの本当の姿なんだ。俺のくだらない思い込みがシロを凶暴な猛獣にしてたんだな…」

大人しい普通の猫に戻ったシロを抱きしめて涙をこぼす春彦。

明日香「ノーと教えるってことは規則を決めるってこと?まさか先生わざと春彦くんをコキ使って……」

春彦「……ああ」

明日香「そ、そんなぁ考え過ぎよ。あいてはあのドリトル先生よ?たまたま偶然結果オーライだっただけで……」

春彦「……」
シロ『ンナ~』

春彦の腕の中でひと鳴きするシロは飛び掛かる様子もない。薬も手術もできるわけがない。十鳥も知ったこっちゃない。それはそうだ、飼い主がどうにか躾けないと意味がないことなのだから…。

明日香「わ、わたし、病院に戻るわ。」

慌てて詰めて持ってきた荷物を抱えて明日香は来た道を引き帰し、春彦もシロを連れて自宅へと帰った。

動物を甘やかすのは愛情ではない。そして、人間も動物である。
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