ー日常ー街の住人達【10】

-十鳥動物病院:仮部屋-

仮部屋の前で身を潜めて春男の独り言を明日香が聞いていた。

十鳥「年下の男の部屋を覗くとは言い趣味だな。」

明日香「わひゃっ!ちっちっちっ、違います!!シロが気になって!春彦くん毎晩シロに噛まれてるんです!!」

十鳥「最近もか?」

そう聞かれて明日香は少し思い返した。

明日香「え?あ…最近はそうでもないかな?」

十鳥「……」

明日香「それより春彦くんずっと頑張ってるし、もうシロを治療してあげてもいいんじゃないですか?」

十鳥「治療?」

明日香「だからシロが赤ちゃんを襲わなくなるように。」

それに対して獣医が返してきた言葉は意外な物だった。

十鳥「フン。あんな凶暴猫治療する方法なんか俺にはない。」

明日香「えっ…?」

二人の背後で扉があく音がした、春彦が呆然とした顔で出てくる。

春彦「治療する方法が、ないって…?」

十鳥「言葉通りさ。5万円なんて嘘っぱちだ。あの猫の凶暴性には薬も手術も効かない。」

春彦「そんな嘘だろ!!あんた名医なんだろ!!」

十鳥「残念ながら本当さ。猫の集会を知ってるか?猫も犬のようにリーダーを作り群れる習性がある。群れを作る動物のリーダー的支配欲によりペットの攻撃性だけが暴走したのが、アルファシンドロームだ。」

春彦「アルファシンドローム?」

十鳥「アルファとなった動物は飼い主を手した扱いしてエサや愛撫を命令する。飼い主が寝ていても腹が減れば叩き起こす。だが優しく鈍感な飼い主はアルファの言うままになって増長させ、そのうち飼い主は手下から「パーリア」に落ちぶれるんだ。」

春彦「パーリア?」

十鳥「そうだ。群れってのは普通リーダーと手したから成る。だが時々その下の階層を作るのさ、それがパーリアだ。パーリアは群れの全員から仲間外れにされいびられる。」

春彦「そんなバカな!!それじゃ人間のいじめじゃねぇか!動物が…そんな心の汚い人間みたいな真似するはずがねぇ!!」

十鳥「動物に夢を見るのは勝手だがな。人間も動物さ。それもハエの二倍程度の遺伝子で動く下等動物だ。人間が考える程度のことを動物が考えないと思うか?」

春彦「……」

十鳥「アルファになったペットは飼い主をパーリアと見なしてイビる。だから撫でることを命令しておいて撫でた飼い主を噛んだりするんだ。」

春彦「じゃ、じゃあシロが俺を噛むのは野生の本能じゃなく俺をいじめてるっていうのか?」

十鳥「そういうことだ。ペットの人間いじめに気付かない飼い主は多い。求められるまま無責任に可愛がり続け、結局安楽死しか道のない凶暴なアルファを作りだしてしまう。不当な要求にはノーと教え行き過ぎた対価は与えないこと。そうしない限りアルファは自分を見失い飼い主を軽視して人間虐待を続けるのさ。」

春彦「ノーと教えるっていったって……動物に言葉は通じないのにいったいどうやって……。」

十鳥「さぁ?俺の知ったことじゃないだろ?」

そのひと言に春彦は後頭部をガァンと殴られたような衝撃を受けた。
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