ー日常ー街の住人達【10】

-十鳥動物病院:治療室-

猫を手荒く引っぺがした十鳥に向かって飼い主の男が飛びかかった。

若い男「この野郎!何するんだ!」

しかし、十鳥は向かいくる男の胸ぐらをつかむと床へと投げ捨てた。そして暴れる猫を押さえつつ片手で器用に薬と注射器を手繰り寄せる。

十鳥「この体格だと体重6キロドミトールは1.4ミリグラムか……」

注射器に薬を入れてペルシャ猫へと注入する。

『シャアアーーフーー……フー……』

牙をむき出して威嚇していたがすぐにトロンとなって大人しくなっていく。

若い男「し、シロに何しやがった!!人間の癖に!!」

十鳥「阿呆、人間以外に獣医ができるか。ただの鎮静剤だ、騒ぐな。」

明日香「せ、先生ありがとうございます。」

両頬に引っかかれた爪跡が残りながらも田島は礼をつげた。それを一瞥して十鳥はいった。

十鳥「ペルシャ猫は猫の中でも気が荒い。そして猫は同じ大きさの犬より噛む力も強い。いいか、猫は6キロでも猛獣なんだそれを忘れるな。」

そして視線を飼い主の方へと向けた。その腕にはいくつもの噛み跡がついている。

若い男「なんだよ!」

十鳥「フン。言っておくがウチの治療費は安くないぞ。のしてこの猫じゃな。」

若い男「金なんかいくらでも払ってやる!さっさと治せよ!」

十鳥「いくらでも……?」

明日香「あっ…」

そのセリフを聞いて悪魔のような笑みを浮かべたのを明日香は見逃さなかった…。

飼い主に何があってきたのかを改めて聞き完全に薬が効いて眠りについた猫の診察を始めた。

十鳥「牙が折れてるな、膿の原因はこれだ。歯が折れて歯髄に細菌が感染し根先膿瘍(こんせんのうよう)を起こしている。そのせいで歯茎の奥に膿が溜まって外に出たんだ。」

明日香「牙の膿がほっぺたから出るんですか?」

十鳥「出口のない膿を外に出すために漏管って道ができたのさ。悪化すれば膿が顔の骨を溶かしてしまう。」

若い男「かっ…顔の骨が…!?」

明日香「ニキビみたいに見えるのにそんな大変な病気だなんて……。あっ、うちの先生って名医で有名なのよ。腕だけは……」

若い男「ケッ」

十鳥「さてと麻酔料と合わせて……なんせこのバカ猫だ。30万円はもらわないとな。」

明日香「さ、30万円!そんな法外な……」

田島が驚く中、飼い主は札の束をドンッとテーブルに叩きつけた。

若い男「シロはバカ猫じゃない。人間に媚びたりせず野生のプライドを持ち続けているんだ。」

十鳥「ヒュー」

明日香「ど、どうしたのこんなお金…あなた高校生でしょ?」

若い男「小遣いさ。足りなけりゃもっと払ってやる!さっさとシロを治しやがれ!」

明日香「そ、そんな言い方失礼じゃない…」

怒ろうとした田島の横を抜けて十鳥が飼い主の前へと立った。身長が自分より頭一つ分高くさっき片手で投げ飛ばされたので若干委縮しつつ飼い主はいった。

若い男「な…なんだよ!」

十鳥「金払いのいい飼い主は大好きさ。早速治療してやろう。」

明日香「せ、先生…」

十鳥は札束を拾い上げるとホクホクとした笑顔でそう答えた。
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