ー日常ー街の住人達【10】

ー某所:一室ー

ひとりの若者が部屋の中で猫を膝に抱いている。ただ、その猫は鋭い目を向けて噛みついている。手にだ。深々と牙が突き刺さり血が流れだしているにもかかわらず、若者は笑っていた。

若い男「ふふふふ……すげえよシロ。お前は人間に媚びる動物なんかとは違う……猫はたとえ人間に飼われていても野生を失わない。本能のままに事由に生きる獣……俺にはわかるよシロ……。」

シロ『ふー……。』

若い男「ん?なんだこれ……くせえ?」

ふと、猫の顔を覗き込むと何かが黄土色の物がついているので目ヤニかと思ったが違ったていた……。


~~


十鳥動物病院で働くことになった明日香は受付をしていた。人が入ってきたのを察して笑顔で応対する。

明日香「いらっしゃませ。初診ですか?先生はただ今往診中です、少々お待ちくださいませ。」

しかし、そんなことも聞かずゲージを押し付けてきた。

若い男「治せ。」

明日香「え?あ、あの…」

おずおずと受付から顔を出して見てみると若い男が憮然とした顔で見下ろしている。

若い男「治せ。」

明日香「(せ、先生より愛想悪い…)じゃ、じゃあ診察室に…。」

診察室まで案内して診察台の上にゲージを置いて中を覗くと、ペルシャ猫が唸っている。

シロ『ヴ~~ヴルルル』

明日香「うわ…なんかコワイ…」

若い男「……」

明日香「だ、大丈夫。怯えているだけよ。人間が安心させてあげれば落ち着くわ(……多分)。」

知らないところへ連れてこらえて興奮しているのだろうとゲージを開けて明日香は猫に手を伸ばした。そのとき不愛想な男はかすかに笑っていた。

シロ『フガアッ!』

手を伸ばしたやさき、いきなり指に噛みついた。甘噛みではなく本気の噛みつきだ。

明日香「いっ、痛!!」

シロ『ヴルルッ!』

手を引っ込めようとするも深々と歯を差し込み、さらに手を伸ばして腕に爪も突き立ててきて振り払えない。

明日香「ううっ、すごい力…」

若い男「くっ、くくくっ、猫は人間に媚びたりしねぇ。野生のプライドをもってるんだ。」

明日香「……!?」

冗談というわけではないいいしれぬ恐怖を感じた。すると手から痛みが消えと思うと今度は飛びかかってきた。

シロ『カアァーー!』

明日香「きゃあああ!!」

十鳥「田島!!」

明日香「せ、先生!!」

往診から戻ってきた十鳥が診察室に飛び込んでくると猫を引っ掴んで引っ張り上げた。同時に猫は抵抗して明日香の顔をひっかいていく。

明日香「い、いだだだ!?」
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