ー日常ー街の住人達【10】

ー池袋界隈:競馬場ー

人の波に飲まれつつ入ったのは競馬場。生まれて初めて入ったその場所の熱気は外の不景気が嘘みたいなほどの盛り上がり。

馬券の買い方などはもちろん知らなかったがせっかくなのでレースを観戦しようと近くまで行ってみると一頭が入馬している。レース馬と言うと気性が荒いのかと思っていたら、騎手にひかれている馬は可愛らしくおでこの毛がハートマークのように見えて可愛らしい。

ふと、電光掲示板に目をやると「アスカミライ」と点灯していた。

ただの偶然、けれども自分と同じ名前の馬……。するとレースが始まり気がつけばその馬をアスカミライを応援していた。

中盤までは食らいついていたもののどんどん引き離され、レースの結果はビリ。それを見て、思った、あれはわたしだ、わたしなんだと……。


~~


明日香「……あなたの気持ちがわたしにはわかる。だからずっと応援してたのよ……。勝てないあなたを……。」

アスカミライ『ブルルッ……。』

明日香「わたしのしたことって単なるエゴなのかな?もし治療費が払えてもあなたを飼うには月40万かかるっていってた。不景気で就職口もないのにそんなお金払い続けていけるはずない……わたしが飼えなきゃ結局処分されちゃう。それならやっぱり……あのとき……楽にしてあげた方が……」

アスカミライ『ブルルルルッ!!グォッグァッ!!』

そのとき、背後で微かになにかが羽ばたく音がした。それと同時にアスカミライは堰を切ったように大暴れし始める。ハンモックに吊るされた状態で撥ねるように暴れ腹部の傷口がさらに裂けて大量の血が噴き出しているにもかかわらずアスカミライは止まらない。

明日香「ダメ傷がキャッ!!」

どうにか止めようとアスカミライに近づいたが振り上がった馬脚が明日香の頭部に掠った。直撃ではないものの威力は凄まじくそのまま後ろに吹き飛び意識を失った。

十鳥「なにごと……ッ!!」

『カァ』

騒ぎを聞いて駆け付けた十鳥はすぐに状況を察してシャッターを降ろして明日香の元へといった。幸いどこにも大きな傷は無く気を失っているだけの様子にホッと息を撫でおろした。

そして、まだ興奮状態にあるアスカミライにゆっくりと近づいてなだめていく。

アスカミライ『ブルルッ、ブルルッ…。』

十鳥「大丈夫だ、アスカミライ……もう大丈夫だぞ……。」

アスカミライ『フールルッ、フルルッ。』
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