ー日常ー街の住人達【10】

ー東京:十鳥動物病院ー

明日香に激を飛ばしていると作業員とは別に二つの影が十鳥に近づいて、声をかけた。

「あのお嬢ちゃん雇ったのか?」

十鳥「治療費のたしに働くっていうんで、看護師の代わりにコキ使ってやろうとね。それにしても随分と厄介な患畜をよこしてくれましたね、富沢教授。あと、お前もだ」

悠「……?」

十鳥「お前だ!」

悠「小前田さん?」

十鳥「このガキは…!」

悠「仕方ないだろ。馬の治療なんて見れる獣医の心当たりなんてここしかなかった。」

富沢「このボロ病院の家賃も稼がなならんじゃろ。」

十鳥「大きなお世話ですよ。」

富沢「それにな。馬も厄介じゃが、それ以上に厄介なのがあの娘じゃ。」

悠「ああ、おれはそっちの方が気になった。何があったのか知らんが、あの馬に恐ろしいほどいれこんでる。」

十鳥「……」

富沢「ま、だからキミに送ったんじゃ!「ドリトル」と呼ばれとる君にな!」

十鳥「……「ドリトル」は名字の「十鳥」からついたあだ名ですよ。それ以上の意味はない……。」

馬の搬送が終了し、倉庫の不用品の片づけと馬が入院できる状態にセッティングが終わるころには夜が更けていた。

明日香「ふーー…本当に全部やらせるんだから…物語のドリトル先生とは大違いね。」

アスカミライ『ブルル、ブルルッ』

明日香「でもいいわ。なんたって、あなたの世話ができるんだもん♪」

アスカミライ『ブルルッ』

気合を入れなおし壁に貼りつけられたやるべきことのリストに目を通す。

明日香「えっと「藁を運んだら患畜の身体を拭け。ただし口元と背後に近づくな、危険」か……。さあ、綺麗にしてあげるわね。アスカミラ……!!」

足の骨が折れた馬は巨大な専用のハンモックで吊している。しかし、その腹部を見てみると擦り傷ができていて出血している。

それを見て、明日香は走った。院内にある先生の部屋まで駆けるとドアを叩き壊さん勢いでノックをした。何事かと十鳥がドアを開けた瞬間、腕を引っ掴んで倉庫まで連れていった。

十鳥「これだから素人は……AHT(※)ならこれくらい自分でやるぞ。」

※:動物看護士。アニマル・ヘルス・テクニシャンの略。

明日香「先生この怪我は……」

十鳥「身体の重みでハンモックに密着した皮膚が壊死して細菌に感染したんだ。」

明日香「ええっ!?それじゃハンモックから降ろさないと!!」

十鳥「ふぅ……競走馬はひどく細菌に弱い。これが競走馬の治療を困難にする要因のひとつだ。ハンモックから降ろし地面に寝かせれば下になった部位がもっとひどく壊死するし、三本足で立たせれば体重を支えられず蹄葉炎を起こす。」

明日香「ていようえん?」

十鳥「足首がうっ血して酸素が回らず蹄骨が溶けてひづめが抜け足が腐っていくのさ。」

明日香「!?」

十鳥は消毒液とタオルなどを並べながら言った。

十鳥「残りをやれ、俺は寝る。明日寝不足で手術の手元が狂っても金は払ってもらうぞ。」

明日香「先生!手術が済めばある蹴るようになるんでしょうか!?」

十鳥「阿呆。大変なのはそれからだ。」
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