ー日常ー街の住人達【10】

ー東京:十鳥動物病院ー

一見すると廃墟にも見えなくもないほど大きくて古びた木造の動物病院。そこに明るい髪色をした女性が恐る恐る近づいていく。

明るい髪の女性「こ……ここが十鳥動物病院?まるでお化け屋敷じゃない……。アスカミライを救うにはここしかないって言ってたけど、こんなとこなんて……。」

不満を毒づきながら入り口のドアを開けると、子供の叫び声が劈いた。

「近寄るな極悪獣医!あんた動物が可愛くないのかよ!動物が好きだから獣医なんだろうが!!」

黒い猫を抱いた少女が後ずさってくる。その前には白衣を羽織った長身の男がどかどかと近づいてきている。その手には大人でも怖がるほど巨大な注射器をもっている……。

白衣の男「フン、残念ながら金払いのいい飼い主さ。怪我をした野良ネコを連れてきて、家でも飼えない、治療費も払えない、だけど治療してくれ?阿保かお前、これはビジネスだ。飼い主のいない野良ネコはどうせいずれ駆除されるだからタダ死なせるよりは実験用に……」

明るい髪の女性「!!」

「こんな病院二度と来るかーー!」

白衣の男「ふん、なまいきなガキめ。ん?」

猫を抱きかかえて飛び出ていった少女から視線を外すと受付の側でぶっ倒れている女を見つけた。

~~

『ブルルッ、ブルッ』

一頭の馬がヨタつきながらかろうじて立っていた。それを数人の人間に抑えられいる。

明るい髪の女性『アスカミライを殺さないで!』

『部外者は立ち入り禁止だ!いったいどこから入ったんだ!』

作業員らしき男に羽交い絞めにされる女性は構わず叫んだ。

明るい髪の女性『あなた獣医でしょ!アスカミライは足を折っただけなのになんで殺すのよ!』

『アスカミライはさっきのレース中第四コーナーで左前足第一指を骨折した。治療は困難でこの部位は完治も難しいうえに治っても競走馬としての復帰は絶望的……馬のためだ。』

明るい髪の女性『やめてー!あなたなんの権利があるの!?あなた達にアスカミライのなにがわかるのよ!?アスカミライが死ぬなら私も死ぬ!私たちは一心同体なんだから!そしたらアンタたちも人殺しよ!!』

『無茶苦茶をいう……。なら、君はこの馬をどうできるというのだ?』

明るい髪の女性『私は……私がアスカミライを治してくれる獣医を探します!!』

~~

ぼんやりと目を開けると知らない天井が目に入った。

白衣の男「フン、気がついたか。」

明るい髪の女性「あっ…。」

あの獣医の暴言のショックで気を失ってしまっていたらしい。

白衣の男「ただの競馬ファンがレース中に足を折った馬に同情して自分も死ぬと脅したと?まったく、人間が死のうが関係ないだろうに。」

足のレントゲン写真を確認しつつ悪態をつく獣医。

明るい髪の女性「……あなたに何が分かるのよ…」

白衣の男「……まず金の話をしておこう。アスカミライの治療費は三千万だ。」

明るい髪の女性「さっ……三千万ですって!?」
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