ー日常ー街の住人達【10】

ー常春の国エメラダ:ミハイル宮殿ー

手始めに小麦を遺伝子レベルで見ると実に繊細な植物なのがわかった。

ある遺伝子をはめ込むと別の遺伝子に作用してしまい病気に弱くなってしまう。また別の部分に遺伝子をはめ込むと気温の変化の影響を受けやすくなってしまう。

この部分をいじるのはダメだと別方向からのアプローチを試みてみるも、成長が早くなって病害虫にも強い……だが、収穫量が極端に少なくなる。

ミハイル「あちらを立てればこちらが立たず。1つ良くしようとすると2つ悪くなる感じだ。ええっ?これは意外と難問だぞ。」

それから日が暮れ、夜が訪れ、ついには朝日が昇った。

チコ「朝になったのに殿下が起きてこない。」

マリア「あれ、さっきモーニングコールに行ってきましたけど部屋にはいらっしゃりませんでしたよ?」

チコ「え?」

マリア「きのう研究室で何かやってましたから研究室で眠り込んでしまったんでしょうか。」

研究室に向かってドアを開けると。

チコ「殿下ー朝ですよー。」

ミハイル「ぐうぬぬぬぬっっ!!」

チコ「うわっ」

ミハイル「だーーーっ!だめだ!小麦は難しすぎて手に負えない!!」

マリア「徹夜したみたいですね。」

ミハイル「気象条件に左右されやすいし病気や害虫の問題もある!小手先の遺伝子操作では歯が立たんのだー!!」

チコ「確かに小麦やお米は厄介かもしれませんね。」

マリア「それなら基本的に希少に左右されにくくやせ地でも育ち成育も早い植物を試してみては?」

ミハイル「そんなものがあるのか!」

マリア「ありますよ。いわゆる救荒作物です。」

ミハイル「あっ」

マリア「サツマイモや特にジャガイモはその条件を満たしているから世界中で栽培されてるんです。」

ミハイル「イモか!イモなら主食として十分なカロリーがあるし、悪条件にも強そうだ!よし、芋の研究だ!」

チコ「えっ、続けるんですか?」

マリア「少しお休みになっては?」

ミハイル「神経が高ぶって休んでなぞいられるかーー!」

チコ「はいはいどうぞご勝手に」

そして、その日の夕方、召集を受けて集まった広間には疲れ切った顔の殿下が山ほどのジャガイモを用意していた。

ミハイル「促成栽培でこれだけつくってみた。」

ムーン1「早いですねー」

ムーン2「さすがといおうか」

ミハイル「食べてみろ」

「「えっ」」

チコ「遺伝子は?」

ミハイル「もちろん組み替えてる。」

チコ「もちろんって…」

ムーン1「すみませんなんとなく遠慮したい気分なんですが」

ミハイル「遠慮しても構わんぞ生きていたくないならな。」

ムーン1「食べます。」

恐る恐る皮をむいて適当な大きさに切った芋口に運んだ。

「「「……」」」

ムーン1「うっ、うまい!なんだこれ、まるで肉みたいだ!殿下、美味しいです!」

ミハイル「牛肉に似たアミノ酸を合成する遺伝子を組み込んだんだ。」
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