ー日常ー街の住人達【10】

ーリバプール郊外:ジェンキンスの屋敷ー

マリア「ボールをどうつかうんです?」

チコ「ナイフなら沼に投げれば済むことですよね。」

ミハイル「普通のナイフならな。水に沈まないタイプのナイフだったらどうだ?」

チコ「ええっ?そんなものがあるんですか」

ミハイル「ある。海漁師が使う「マキリ」と呼ばれる刃物だ。これは海に落としても沈まないように柄が大きな木製になっている。これを沼に沈めるためにボールを重りとして使ったわけだが…」

チコ「だが?」

ミハイル「気になったのは明け方近くまで暖炉が燃えていたという点だ。処分するだけなら日の中に放り込めばいい柄はすぐに燃えてしまうし熱で脆くなった刃を追って沼に投げ込めば完璧だ。しかしそうはしないで犯人は手間ひまをかけて刃物を沼に沈めた。なぜか?引き上げてその刃物でもう一度殺人を犯すためだ。すべての要因(ファクター)が犯人はボウリング好きの漁師で更なる犯行をたくらんでいることを示している。警部、証明終わりです。」

ローソン警部「おお、さすがは名探偵友の会の正会員。なんと見事な推理だろう。」

チコ「そうかなぁ……今までで一番あてずっぽうに聞こえるんだけど。」

マリア「でも、前例がありますから。」

チコ「なにも言えないのよねぇ……。」

ローソン警部「さっそく署にもどって顧客の中にボウリング好きの漁師がいるかどうか確認します。」

ミハイル「僕たちは待機してます。今夜も犯人が引き上げに来るかもしれませんから。」

数時間後……

チコ「殿下、警部から電話です。」

ローソン警部『殿下、いました、いましたよ!アラン=ロッドという男で趣味はボウリング数年前まで父親がマン島で漁師をやっていたようです。』

ミハイル「親の形見かもしれませんね。それなら同じ刃物に拘るのも分かります。」

マリア「居るんですね。ボウリング好きの漁師が」

チコ「なんだかなぁ」

それから間もなく夜になったがミハイルたちは屋敷の中から沼の様子を見張っていた。

ミハイル「カーテンはしっかり閉めておけ、灯が漏れるとまずい。」

チコ「大丈夫です。」

マリア「殿下、食事なんですが台所に缶詰がありました。ひと手間くわえたいところですが日が使えませんからこれで我慢してください。」

ミハイル「やむをえんな。あむっ、もぐもぐ……ふむ、薄味だが結構うまいフレークだな。」

どこの物かと缶を見てみるとキャットフードとパッケージされていた。
30/67ページ
スキ