ー日常ー街の住人達【10】

ー常春の国エメラダ:ミハイル宮殿ー

ミハイル「考えてみれば一介の弁護士が公爵家の財産を横領できたというのも不自然な話だ。議長の後ろ盾があったのかもしれんな。しかし、わからないのは伯母上だ。国がそんな悲惨な状況にあるなら、なぜ僕に助けを求めない。僕ならなんとでもできるのを聡明な伯母上が知らないはずがないのに……。」

医務局員「殿下、よろしいですか?」

ミハイル「なんだ?」

医務局員「医務局の古い資料を整理しているときコサージュ公妃の名前を見たのを思い出しまして、それによると公妃さまはご結婚後まもなくエメラダに一時帰国されています。」

ミハイル「里帰り?そんなはずは……」

医務局員「おもてむきは難病治療のためですが当時の医務局長の極秘記録によりますと……公妃さまはエメラダで出産されています。」

ミハイル「バカなことを言うな伯母上に子供は……資料を貸せ!ふむふむ!出産したのはまちがいないようだ!この日付からすると結婚して8カ月目だ!」

「「えええっ!?」」

マリア「あれ、待ってください。それじゃ計算が合いませんよ?」

ムーン1「いや、公妃さまは大学卒業後すぐに侯爵家に嫁いでおられる!」

ムーン2「あきらかに政略結婚だ!」

ミハイル「嫁いだ時にすでに身ごもってたんだ学生時代の恋人の子供を」

ザナドゥー「!?」

ミハイル「君の父上は、その子を引き取り、侯爵家の嫡子として育てた。もちろん絶対に秘密の行動だったはずだがいつか議長がその事実を察知して」

チコ「ああ、スキャンダルをネタに公妃様をおどし殿下に助けを求められないようにした……。」

ミハイル「というよりも、公爵を排除した。あとどこかで生きているであろう子供の命を盾にして伯母上に沈黙を強制したと考える方が自然だろうな。我が子のために伯母上は二十数年の長きにわたりまったく自由を奪われてしまったわけだ。さて、このあらましは判明したぞ。ザナドゥーはこれからどうする?」

ザナドゥー「やることは決まっている。」


ルプセン公国議員会館から杖をついた老人が出てきた。背後では他の議員陣が一斉に頭を下げた。

「「「議長閣下おやすみなさいませ。」」」

議長「うむ」

数人のSPに辺りを注視されつつ黒塗りの高級車へと乗り込んだ。同型の車両が先頭で動きだすと閣下が乗った車も動きだし、さらにその後を追うように車が発進された。
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