ー日常ー街の住人達【10】

ー常春の国エメラダ:ミハイル宮殿ー

チコ「名刺のうんちくはわかりましたけど会うんですか会わないんですか?」

ミハイル「まあ待てえーと……おお、ヨン=ヤーステン侯爵。」

ムーン1「ご存知ですか?」

ミハイル「知らん」

チコ「はた、しょうもないボケを…」

ミハイル「初めて見る名前だ。何者だろう。」

ムーン1「知らないなら、なぜ「おお」なんです。」

ミハイル「「おお」でも「ああ」でも僕の勝手だろうが。」

ムーン1「はいはい、殿下の勝手です。ご存じないなら追い返しますか」

ミハイル「待てというに、もしかしたら、うまい金儲けの話を、もってきたのかもしれんじゃないか。会ってみて、金儲けでなかったら、それからたたき出しても遅くないとにかく通せ」

ムーン1「だったら最初からそう言えよ(はいはい、わかりました)」

マリア「本音と建前が逆になってますよ。」

~~

結局会うという事でヨン=ヤーステンを通した。それはブロンドがかった髪の長身の青年だった。

「ミハイル君、久しぶりだな」

ミハイル「えっ……えと、どちらかでお会いしましたっけ?」

「素顔では、分からないのも無理はない。」

そういって手に持っていたコートを大きく振ると一瞬で仮面をつけたマント姿に早変わりした。

ミハイル「ザナドゥー!」

かつてザナドゥーという有名な役者がいた。彼の特殊な演目は舞台に大きな柱を一本用意しそこを起点にザナドゥーが瞬間的な早変わりをしていき、しかもそれが一人で20役も30役もやる一人芝居で、人気を博していたのだ。

ミハイルとは、ある事情から知り合ったのだが、実は彼はヨーロッパのさる侯爵家のひとり息子で財産を横領して両親を自殺に追いやった。悪徳顧問弁護士に復讐するため密かに活動いたのである。

ザナドゥー「思い出してくれたようだね。」

ミハイル「ああ、その弁護士を抹殺し変装でそいつになりすますことで見事に財産をとりかえしたんだったな。」

ザナドゥー「うむ、さらに弁護士が死んだことにして、遺言で私自身に財産の法的権利を移し、盗まれた金融資産の大部分は、取り戻した。もっとも、故郷(くに)に残された屋敷や広大な領地は、人の手に渡ったままだがな。」

同じようにもう一度マントを振るうと最初の素顔に戻ってザナドゥーはソファに腰かけた。

ミハイル「ふうん。で、僕に何のようだ。まさか、懐かしさから旧友を訪ねてきたわけでも……ハッ、金を借りに来たんじゃあるまいな!僕は金を貸せとか返せとか、言われるのが何より嫌いなんだ!そんな恐ろしいことを言ったら生きては返さんぞ!もっとも、年利2000%なら貸してもいい」

マリア「殿下、財産を取り戻したとおっしゃってるんですよ。借金の申し込みに来るわけないですよ。」

ミハイル「あっ、そうか。…………1500%までなら譲歩してもいい。」

チコ「すみません。お金の話になるとわけがわからなくなるんです。」

ザナドゥー「あいかわらずやっかいだな。」
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