ー日常ー街の住人達【10】

ーMIT:教授室ー

トム「教授、ちょっといいですか?」

教授「トムかなんだね。」

トム「応用原子物理学のレポートを書いてるんですが、題材として戦略核を選んでみたいんです。」

教授「ほほお、核兵器か。面白いテーマだな。」

トム「資料を集めている過程で妙な事実に気がつきまして。」

教授「うん?」

トム「ご承知の通り核保有国は過去に何度も地下あるいは海中において核爆発実験を行っています。」

教授「当然だ。製造した核爆弾が本当に核分裂を起こすかどうか実験してみなけりゃわからんからな。」

トム「軍事偵察衛星の発達のおかげでこの種の実験はすべて確実に捕捉されています。つまり衛星を保持している米国やロシアに知られずに実験を行うことは不可能なのです。」

教授「それも当然だ。どんな地下でも水中でもエネルギーの激烈な拡散を覆い隠せるものではない。」

トム「ところが入手した実験記録を綿密に分析したところ核保有国の中で唯一、エメラダだけが実験した様子が見当たらないのです。」

教授「エメラダというと……ああ、小国ながら核武装しているという珍しい国だな。えっ?実験した様子がないというのは?」

トム「ですから、エメラダは本当は核兵器を持っていないのではないかと……」

教授「ええっ!?」

トム「だってそうでしょう本当に核爆弾を製造していたら有効性を確認するために最低でも一度は爆発実験を行うはず。それをやっていないという事は、そもそも製造していないと考えるのが自然ではないでしょうか。」

教授「ちょっ、ちょっと待ちたまえ。ではエメラダは持ってもいない核兵器で武装していると広言しているわけか、なぜそんなことをする?いや、待てよ。今思い出したがエメラダには原子力発電所があったはず。燃料も技術もあるわけだ兵器に転用するのは、いとも簡単な話だぞ。」

トム「キーワードは「国王」です。調べたところ天才的な頭脳の持ち主でなおかつ天才的なケチだそうです。技術も資金力もあり、その気になればいつでも核兵器を製造できる、それをみんな知っているわけです。となれば相当な開発費を投入して実際に作る必要はない。持っているといえばだれも核の存在を疑いはしない、つまり……ケチで有名な国王は口でいうだけで一セントも使わずに本当に核武装しているのと同じ抑止力を手に入れたのです。」

教授「ブラフ(ハッタリ)か!なんとまあデカい嘘をついたものだな。」

トム「嘘は大きいほど疑われないものです。」
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