ー日常ー街の住人達【10】

ーミハイル宮殿:資料室ー

ムーン1「いやあ、ど忘れしたみたいだ」

「ぼくもど忘れだ」
「ぼくも」
「拙者も」
「わがはいも」

ムーン2「なにー!これだけ頭数が揃ってて誰もパイライフが登場する物語を覚えてないのか!まったく頼りにならない連中だ!」

ムーン1「そういう君はどうなんだ?」

ムーン2「ぼくが覚えてるくらいなら君たちを頼りにするかー!」

ムーン1「こんな奴はほっといて、おかしいじゃないか全員が揃いも揃ってど忘れするなんてあり得ないだろう。外でもない有名なパイライフだぞ。」

ムーン3「有名なのか」

ムーン1「有名だから、みんな知ってるんじゃないか」

ムーン3「そこがひっかかるなあ。パイライフって名前は知ってても、それをいつ聞いたのか、どこで目にしたのか、まるで思いだせないんだ。」

「右に同じ」

「以下同文」

チコ「謎が謎を呼ぶ展開ですね。」

マリア「福太郎さん、すみません。ちょっと混乱してるのであとでかけ直します。」


結局、その場では誰一人として原作を思い出せなかった。そして今度はより幅広く探すために図書室の絵本まで調べ始めたたのだったが。

ムーン1「パイライフのパの字も出てこないのが解せない」

そこへやってきたのが

「こんにちはー」

チコ「あ、トムさん」

アメリカからの留学生トム=クローズ君19歳

トム「なにをしてらっしゃるんですか。」

MIT(マサチューセッツ工科大学)に16歳で入学した彼は原子物理学を専攻しています。エメラダの原子力発電所で使われている超小型原子炉を卒論のテーマに選び、その勉強のためにエメラダ大学家政学部人文学科学原子力研究室に留学しているのです。

ムーン1「ちょっとパイライフについて調べているんだ」

トム「パイライフ…ですか?」

ムーン1「もちろん知ってるだろう。おとぎ話でよく出てくるからね。」

トム「えっ、ああ、パイライフね。子供のころ母がよく読んで聞かせてくれました。」

「「「(やっぱりみんな知ってるんだな。知らないのは自分だけか。)」」」

原子力発電所はムーンたちが交代で管理しています。したがってトム君も顔なじみになり、ときどき宮殿に遊びに来るようになりました。

性格も良く美少年の彼は、今ではムーンたちに気にいられてちょっとしたアイドル的存在になっています。

かわいいアメリカからの留学生とは表向きの顔で、実の彼はCIAのスパイなのです。

といっても、もちろん正規のエージェントではありません。彼がCIAに協力するきっかけというのが3カ月前……。
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