ー日常ー街の住人達【9】

ーアラファト家政婦派遣協会:談話室ー

おタネ「それどころじゃないわ!おマリちゃん、ちょうどよかった!あたしあなたの代理で渋谷の熊木さんのお宅にいったのよ。」

マリア「えっ……よりによって熊木様ですか」

熊木の名前を聞いておマリの顔が若干ひきつった。

おタネ「あなたよくあんな所で働いてたわね!」

お熊「ちょっとお客様に対して批判めいたことを言うなんてベテランのおタネさんらしくないわね。」

おタネ「だってど変態なのよ!!」

お熊「……おマリちゃん?」

マリア「説明しますと、熊木様は息子さんに会社を譲ってご隠居なされた70歳のおじいちゃまです。」

お熊「ふむふむ」

マリア「お若いころから仕事ひとすじで趣味も道楽もお持ちでなかった片が、ご隠居なさって暇を持て余しているうちにみつけられた趣味というのが……」

お熊「趣味というのが?」

マリア「SMクラブ通い」

お熊「どうしてそんな極端な趣味に走るのよ!」

マリア「私にいわれましても……とにかく女王様にいたぶられる快感にめざめた熊木様はSMクラブに通い詰め、最近では、ご自宅でも、パピヨンマスク、ロウソクと鞭をもって、ミチミチの男性ブラとビキニパンツにハイヒールという格好で過ごされるようになったんです。」

お熊「確かに変態だわね。」

おタネ「でしょう!でも、おかしいのは姿形だけじゃないの!家政婦に要求することが変なのよ!」

お熊「というと?」

おタネ「まず食事はとにかく辛い物!お風呂は、熱湯、掃除の時はわざとコップなんかを割って家の中を危険な状態にしておくこと!」

お熊「ええっ!?」

マリア「身体をいじめるのがお好きなんですよ。」

おタネ「おまけに夜、寝る前にマッサージをしろと言うから、マッサージは得意ですと答えたら、ただのマッサージじゃなくて、踏んだり蹴ったり鞭で叩いたりしろっていうのよ!」

お熊「筋金入りだわね。」

おタネ「あたし基本的にMだから、そんなことできっこないわ!だからムリーッて逃げてきたのよ。」

お熊「ちょっと待って、すると、おマリちゃんは今までそういう事をやってきたわけ?」

マリア「私も、とても苦手でしたが、お客様のご要望ですから頑張ったんです。」

お熊「でも、お得意様はお得意様なのね。」

マリア「はい、とても。そういうのはいわば特別サービスですから、お給金をたくさんいただきました。とくに足の指の間に熱いロウを、たらして差し上げた時なんか大変喜ばれて」

お熊「それ以上言わなくていいわ。」
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