ー日常ー街の住人達【9】

ー練馬:大林宅ー

置き薬屋「うちは江戸時代から続く老舗でおましてな、昔はドラッグストアはおろか近所に薬屋もないところが多くて皆さまに重宝していただいたものでごわす。」

なかなか語尾が個性的な置き薬屋だ。

マリア「奥さまが効き目が穏やかでいいとおっしゃってます。」

置き薬屋「漢方がベースになっとりますけんのぉ。とくにお年を召された方のお体には、やさしい作りのお薬なんざんす。」

マリア「どうでもいいですけど、言葉がバラバラ過ぎません?」

置き薬屋「日本中回ってるすけ、ゴッチャになったんだっぺ。ほな、失礼をば半年後にまたきまっさ。アディオスアミーゴ」

マリア「ご苦労様です(メキシコの辺りも回ってるのかな?)」

陽気な置き薬屋と入れ違いに、まだ誰かが訪ねてきた。

「こんにちはー」

黒いハンチングに黒い作業着に似た色揃いの仕事着の男。

マリア「CHM!」

CHM員「アラファト!」

マリア「あなたは来週からのはずじゃ」

大林「おマリさん、どなたかしら?」

今のさっきまでにらみ合っていた顔がコロッと笑顔に変わる。

CHM員「ああ奥さま!今月はサービス月間でして契約より3日早く、しかも無料で働かせていただくキャンペーン中なのです。」

マリア「サービスか何か知りませんけど今週は私が働かせていただく約束です。帰ってください!」

CHM員「そうはいかない!」

大林「ま、まぁまぁ…」

CHM員「ところで奥さま今しがた出ていかれた大きな荷物のお客様は?よくお見えになられる方ならお名前をうかがっておいたほうがよろしいかと」

大林「ああ、あの方は富山の置き薬屋さんよ。」

CHM員「置き薬屋!?いけませんねぇ」

マリア「むっ、何がですか」

CHM員「人件費がかかる分、薬は絶対、割高になっているはずです。ゆけいなお金を使う必要はありません。今はコンビニでも薬が買えるのです。来週からは、僕がコンビニで買ってきます。」

マリア「いけない!」

CHM員「なぜ?」

マリア「あなたの仕事のやり方に口を挟むつもりはないが、薬を変えるのだけはいけない!」

CHM員「だからなぜ!」

マリア「奥さまは漢方ベースの置き薬を長年愛用されていたんです!コンビニの新しい薬をお飲ませして、かえって病気にでもなられたらどうする!」

CHM員「バカバカしい薬で病気になるなんて」
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