ー日常ー街の住人達【9】

ー派遣先:赤城宅ー

おマリが客室へと駆けこむと、そこには黒い作業着(CHMの制服なのだろう)姿にハンチングの男が居た。

CHM員「アラファト!」

マリア「奥さま、これはいったい……?」

奥様「新しい家政婦派遣会社ができたらしくて、ためしに一度使ってみてほしいと言ってきたの、これがあちらの料金表よ」

チラシに目を通してみた。

マリア「(安い!たしかにうちの半分くらいだ!)」

奥様「年金暮らしだから出費は少しでも押さえたいところだけれど、でもおマリさんもよく働いてくれるしどうしたらいいか迷ってるのよ」

マリア「奥さま、安物買いの銭失いという言葉がございます。値段にひかれて失敗するのは、よくあることです。いかかでしょう。今日一日私たちを働かせて比べてみていただけませんか?もし彼が半分の料金で私と同じくらい仕事ができるなら私も引き下がらざるを得ません。」

奥様「それなら……公平ね。」

二人は、さっそく働き始めました。

家政婦業の基本である掃除が始まってみると、徐々にではあるがハッキリと差が開いてきた。

マリア「(手順が悪い。やっぱりインスタント教育には限界があるみたいね。)」

奥様「おマリさん、足元が冷えてきたわ。スリッパを出してちょうだい。」

マリア「奥さまが冷え性でらっしゃるのは存じ上げておりますので、ふところで温めておきましたよ。」

保温性の高いモコモコのスリッパを差し出す。

奥様「まあ、とても気がきいてるわね。」

マリア「(ふふっ、ポイントを稼いだわ)」

CHM員「……」

奥様「テレビのリモコンはどこかしら?」

CHM員「どうぞ、ふところで温めておきました」

奥様「えっ……あら、そう」

マリア「(人まねをしてもピントがずれてる。)」

奥様「おマリさん、今日の夕食はなにかしら」

マリア「メインはサンマの塩焼きですが業務用スーパーで大量に買い込んだうちの一匹なので一匹当たり20円で済みました。」

奥様「まあ、それはとても倹約ね。」

マリア「さらに電子レンジで解凍すると電気代がかかるので、ふところで温めて解凍しました。」

奥様「まあ、冷たかったでしょうに」

マリア「奥さまのためならいかなる苦労もいといません。」

CHM員「僕もふところで味噌を温めておきました。味噌汁をつくるとき冷蔵庫から出したばかりの味噌を入れると、お湯の温度が下がって余計なガス代がかかりますからね。」

奥様「まあ……それはとてもビミョーな倹約ね。」

マリア「フッフッ、(どんどん差がついてるわね。)」
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