ー日常ー街の住人達【9】

ー葬儀場ー

少し前のお話。夢前マリアのお父さんが亡くなったときのことである。葬儀も終わり、ひとり残っていると、声をかけられた。

銀行員「もしもし、ニコニコ銀行のものですが」

マリア「はい?……えっ!百億円の借金!?」

不動産会社の経営に失敗したお父さんが百億円と言う莫大な借金を残したことをマリアは初めて知ったのです。

銀行員「お父さんに変わって君が返してくれなくては、いけない。」

マリア「はぁ……いや、百億ですよね?」

銀行員「月々10万円でいいんだ。」

マリア「じゅうま……ええっ?!いや、月に10万円で百億円返すのにどれぐらいかかるです?」

銀行員「ざっと一万五千年」

マリア「本気でいってるんですか?」

銀行員「本気も本気、大本気。なにより自己破産されるのが一番困るんだ。10万円ずつでも返してもらっている間は不良債権にしなくて済むから銀行としても都合がいいんだよ。」

そういっていくつかの書類を渡されて銀行員は帰ってしまった。

マリア「とはいっても……私には10万円も大金だ。10歳の子供をアルバイトさせてくれる所なんてないだろうし……一体どうしたら。」

「君が、夢前平八郎さんのお孫さんかね?」

もう誰も残っていないと思ったが、声をかけられた方へと振り返ると杖をついた白髪のお爺さんが居た。

マリア「あなたは?」

「こういう者だ」

差し出された名刺を受け取る。

マリア「アラファト家政婦派遣協会会長、荒川歩安太郎(あらかわふあんたろう)。」

安太郎「戦争中、上官だった君のお爺さんに命を救われたのだよ。今度はわしが恩を返す番だ。」

というわけで義理堅い会長さんは年齢を偽ったニセの身分証明書まで用意してマリアを雇ってくれたのです。

家政婦として働き始めておマリは同僚のお熊さん(日本CIAの嘱託情報院である)、他の家政婦さんたちとともに一生懸命働いて充実した家政婦ライフを送っていたのですが、ある日のこと……。

番頭「たいへんじゃー!」

マリア「どうしました番頭さん」

番頭「新しい家政婦派遣会社ができたんじゃ!」

「「なんですって!?」」

お熊「あの話は立ち消えになったはずでは?」

旧KGB(ソ連国家公安局)の日本支局長だったトカレフと言う男が不正な手段で手にした莫大な裏資金を洗浄(マネーロンダリング)するための隠れ蓑として、アラファト家政婦派遣協会の近くに、新しい家政婦派遣会社を作ろうとしたのですが、内部攻勢が起こり、№1のトカレフが№2のドライバ=カチンスキーに殺されたため、その計画は頓挫したのです。
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