ー日常ー街の住人達【9】

ー常春の国エメラダ:ビジネスホテルー

グルメ「10時半にチェックアウトのはずが姿を見せないのでボーイが部屋に行ってみたのです。ピノキオ氏は10階のスイートルームに秘書は隣のシングルルームに泊まっていました。しかしどちらの部屋のベルを鳴らしても反応がないので支配人が。」

シーツ「支配人のシーツです。」

グルメ「マスターキーでドアを開けたところ、ちなみにマスターキーは支配人と客室係の主任が持っている二つだけです。」

ミハイル「ふむ」

グルメ「秘書はベッドの上で絞殺されていてピノキオ氏は同じベッドの上で寝ていたのです。」

ミハイル「寝ていた!?」

グルメ「正確には泥酔していたのです。通報を受け、われわれが現場に駆け付けた時ピノキオ氏はまだ寝ていました。揺り動かして何とか起こしましたが目の焦点は定まらず呂律も回らないようなありさまでした。」

ミハイル「ふーむ」

グルメ「そこで隣の秘書の部屋に移し、コーヒーを何杯も飲ませてかろうじて殿下と約束があるという話を聞き出したのです。」

ミハイル「ではピノキオ氏と事件のことは?」

グルメ「まだなにもしゃべっていません。」

ミハイル「容疑者というのは?」

グルメ「だって2人とも初めてエメラダに来たのですよ。友人や知人がいるとは思えないし、ということは殺害するほど被害者に恨みを持つ人間がエメラダにいるとも考えられないということです。ひるがえって2人は社長と秘書です。仕事上でいさかいがあったことは考えられます。」

ミハイル「うーん」

グルメ「さらにパスポートで確認しましたがピノキオ氏は32歳。秘書のミス=カーミラは56歳。年齢差はありますがひょっとして男女関係のもつれという可能性もないわけではありません。おわかりですかエメラダには動機を持つ人間はおらずピノキオ氏にはいくつかの動機が考えられるだから一番の容疑者なのです。」

ミハイル「断定的すぎますね。」

グルメ「なにがです?」

ミハイル「2人がエメラダに初めてきたとなぜわかるのです。以前に来たことがあるかもしれない。」

グルメ「パスポートには数年前までの記録が残ってます。2人とも来てはいません。」

ミハイル「もっと前なら?」

グルメ「そんな前のことが動機になりますかな」

ミハイル「とにかく不自然でしょう」

グルメ「だからなにがです。」

ミハイル「殺すなら地元でやればいい。そのほうがアリバイ工作だってやりやすいだろうにどうしてわざわざ旅先で犯行に及んだのです。」

グルメ「旅の解放感から酒を飲みすぎ普段からたまっていたうっぷんが爆発して殺人を犯したのです。」

ミハイル「いくら酔っていたか知らないが人間一人殺しておいて、その隣で高いびきとは、あまりに不自然すぎます。」

グルメ「もしピノキオ氏以外に犯人がいると仮定した場合。動機も何もない通り魔みたいなやつがホテルの部屋に忍び込み被害者を絞め殺して逃げたことになりますが……そのほうがよっぽど不自然ではありませんか。」

ミハイル「今回はなんだか意見が合いませんね。」

グルメ「ですな。」
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