ー日常ー街の住人達【9】

ー東京新橋:品川家二階ー

銃声は向こうの「室内」から聞こえ。慌てて身を乗り出して向かいを見るとフードを深くかぶった何者かが飛び出していった。

マリアも慌てて一階へと駆けおりる。

品川「おマリさん今の物音はなに!?」

マリア「お隣で揉め事です見てきます!」

品川「気を付けて!」

向かいの家のドアは開けっぱなしになっている。中を覗くとまず目についたのはトカレフだった。ただし、明らかに致命的な血の海に倒れている。つまり……死んでいる。

おマリはお熊に連絡した後、警察へと通報した。発砲と殺人という平和な民家には似つかわしくない事件に集まってきたパトカーと警察の数は相当なものだ。

その様子を遠くから見つめながらお熊が言った。

お熊「昔なら短波無線機と膨大な書類が残されていたでしょうけど、今はパソコン一台で通信もデータ処理もできてしまう。つまり、残されているのはパソコンだけでおまけに犯人が逃亡するとき、必ずデータを消去したはずだから警察には何もわかりっこないわ。てころで……このダンボールは?」

マリア「それがそのートカレフの死体を見たとたん脳がパニックになってわけがわからなくなって、トカレフの側にあったこの箱を持ってきてしまったんです。」

お熊「ずいぶん重いわ。よくひとりで持てたわね。」

マリア「火事場のなんとやらでしょうか」

お熊がダンボールを封していたガムテープを剥がして中を見てみると、なんとぎっちりと敷き詰められた札束だった。

お熊「10億はあるわね」

マリア「じゅっおっくぅ!!」

お熊「きっとKGBの当座の資金ね。」

マリア「つい持ってきたんです!警察に届けましょう!」

お熊「そんなことしたらお金目当てであなたがトカレフを殺したと思われるわ。いいわ、どうせ不正なお金なんだから貰っちゃいましょう。」

マリア「もらったって裏資金なんか使えませんよ!」

お熊「使えるようにすればいいのよ。マネーロンダリングはKGBの専売特許じゃないわ。」


それから数日後…

番頭「リーダーが死んだおかげで新しい家政婦派遣会社は空中分解したそうじゃ。」

おばさん「よかったわねぇ」

おばちゃん「これであんしんして働けるわ」

番頭「肩の荷がおりたわい」

その話で盛り上がるなかおマリはお熊から一枚の写真を見せられた。

マリア「これは?」

お熊「ライバー=カチンスキー、トカレフの右腕だった男よトカレフを見ろしたのはコイツに違いないわ。」

マリア「昔の写真ですか?」

お熊「今は50代後半でしょうね。あたしたちの世界ではCIAがトカレフを殺したという噂が広まってるのもちろん否定してるけど、誰も信じないわ。きっとカチンスキーが自分のみを守るためとCIAの立場を悪くするためにデマを流してるのよ。歳はとっても食えない男だわ。どちらにしてもナンバーワンが死んだ以上、当分はKGBも動きが取れないでしょうよ。」

マリア「はあ」

さらに三か月後…

お熊「おマリちゃん、はいこれ」

大きなジュラルミンケースを差し出される。

マリア「なんです?」

お熊「五億円よ。あなたのものよ。」

マリア「どどどどどーゆーことです!?」

お熊「あなたが公園で十億円入りのダンボール箱を拾ったことにして警察に届けたのよ。ニュースがもれるとマスコミがうるさいからCIAが徹底的に情報をコントロールしてね。当然落とし主なんか現れっこないから三カ月たって合法的にあなたのものになったわけ。」

マリア「あとの五億円は?」

お熊「情報操作の手数料としてCIAがもらったわ」

マリア「KGBだけでなくCIAもがめついんだなぁ」

おマリはさっそくその5億円を借金の返済に当てました。しかし残りがまだ95億円、おマリの果てしない借金生活は続きます。
1/100ページ
スキ