ー日常ー街の住人達【8】

ー東京新橋:品川家ー

マリア「お言いつけ通りミョウガのお味噌汁とフキとお豆腐の煮物を作りました。」

品川「ありがとう。おマリさんはお料理が上手だから助かるわぁ。そうそう、お料理といえば、いつぞやの家政婦さんなんかそりゃひどいものでねぇ。」

品川さまは気性が激しかったり無茶な仕事量を押し付けてくる方ではないのだがとにかく話が長いのだ。こうしてあーだこーだと始まったこの話を聞くのは何度目だろうか。

マリア「(しかし、ご主人さまの愚痴を聞いて差し上げるのも大切な仕事だ。)」

品川「というわけなのよひどい話でしょ?」

マリア「そうですね。しかし同業者のことですからコメントは差し控えます。」

品川「おマリさんのそういう所もいいのよ。節度があって、今日はもうあがっていいわ。」

マリア「はっ、それではお二階の掃除が住みましたら帰らせていただきます。」

品川「ホントによく働くわねぇ」

ライバルにお客を取られないように頑張ると気合を入れて二階へとあがった。そしてふと窓から何気なく下を見ると、となりの家との間のせまい路地を入ってくる人影、人間離れした恐ろしい顔にモヒカン頭……。

マリア「(トカレフ!?)」

見間違うことはまずありえない風貌の男はそのまま隣の家へと入っていった。


~~


マリア「というわけなんですっ!!」

お熊「大声出さなくても聞こえるわよ。百メートル先にいるわけじゃないんだから。もしかしたらそこはKGBの秘密アジトかもしれないわね。」

マリア「えぇっ!?新橋の住宅街の中の古い民家ですよ?KGBのアジトといったら、なんとなく南海の孤島とか」

お熊「不便でしょうがないでしょーが」

マリア「せめて高級なインテリジェントビルの最上階」

お熊「映画の見すぎだってば。ビルの最上階なんか出入りが人目についてしかたないわ。諜報活動(エスピオナージ)の基本はとにかく目立たないことなのよ。その点、住宅街の中の一軒家なら人に見られる危険性も少ない中に通信設備があれば理想的なアジトだわ。」

マリア「でも、やっぱりイメージが……KGBというより、柳田格之進が住んでそうな家なんですよ?」

お熊「誰なのよソレ!とにかく007の見すぎ!KGBはスメルシュでもスペクターでもショッカーでもないわ!生身の人間たちよ!日本人が住みやすい家ならロシア人にも利用しやすい家なのよ!」
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