ー日常ー街の住人達【8】

ー常春の国エメラダ:ミハイル宮殿ー

真夜中のことでした。殿下の寝室からグーグーと寝息……

ミハイル「だめだ、お腹が空いて眠れない。」

ではなく腹の音がなっていました。

なお、腹が減ったとのたまっていますが夕飯はいつも通りの10人前。しかし本人はきっと育ち盛りだからお腹が空くんだと自己完結して、台所で何かあさってこようとベッドから起き上がりました。

ドアの前に近づくとタッタッ、タッタッタッと誰かが廊下を走る音が聞こえてきます。こんな真夜中に誰だと少しだけドアを開けて見てみると寝間着姿で額に「キ」の字がついたムーンが通りすぎていきました。

「だめだどうしても気になる。」

ミハイル「なにが気になるんだ?」

気配を消して後をついていくと職務室へと駆けこんでいった。何をしているのかと思えば自分のデスクの前で立ち止まって……。

「ああやっぱり。一番上の書類が少しずれている。……よし!これで安心して眠れる。」

書類のずれを直すと安心した顔でその場から立ち去っていった。

ミハイル「なんなんだあいつは」

翌朝になって殿下は昨日の出来事を聞いてみた。

チコ「ひたいにキの字なら「キ号」さんですよ。」

ミハイル「記号?」

チコ「そうでなくて。キチョーメン号が正式名称ですが少し長いのでキ号と略してるんです。」

ミハイル「どんなやつだ」

チコ「名が体をあらわしています。」

ミハイル「というと、ラーメンツケメンぼくキチョーメン、ラーメンツケメンぼくキチョーメンという風に表してるのか」

チコ「違います。几帳面です」

ミハイル「ダイレクトだなぁ。つまらない返しだ。」

チコ「古くさいギャグのしょうもないもじりに対してなにをどう返せというのです。」

ミハイル「それはまぁおいといて……どう几帳面なんだ」

チコ「ゆうべ殿下が見たキ号の行動ですが、おそらく夕方仕事を終えて食事をしてお風呂に入ってベッドにもぐりこんで眠ろうとしたんですが、もしかしたら机の上の書類が少し曲がってたのかもしれないと思ったら気になってとても寝てられなくて夜中に直しに行ったんじゃないでしょうか。」

ミハイル「なんとも几帳面だなあ。でもズボラな奴よりいいんじゃないか?」

チコ「ところがギッチョン。まっすぐなものはまっすぐでないと気が済みませんから、他の人の書類が机の直線からほんの少しでも曲がっているとおせっかいにも直しに来るそうです。」
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